第20話
摩訶不思議 二十章
一二三 一
十九章の最後でお伝えしたように、今回はX先生話でKさんが真っ青になったエピソードをお話しします。
(一)
X先生と仕事をする様になって全国あちこちへ出向くようになった隆とKさん。
東北地方に出向いた時のことです。
東北地方でX先生の講演会があり、それに先立って昔X先生の元をよく訪ねてこられ、東北地方の世話人のような立場の方がいらっしゃったのですが、お亡くなりになってその方の墓参りに向かう事になりました。
目的の墓所に到着し、X先生がお参りをされている時の事です。
それまで何処にもいなかったのに、お墓のすぐそばに一匹の猫がいます。
お墓のすぐ横の陽だまりからX先生を見上げるように目を細めてしゃがんでいます。
隆は何故かその猫がX先生の読経を心地よさそうに陽だまりで聞いている様に思えたのですが、墓所に到着した際には何処にもいませんでした。
「Kさん、あの猫このお墓に来た時からおったかな?あんな所におったらすぐに分かるはずやろ。しかも先生見上げてお経聴いてるように感じるわ。」
「まあ猫は神出鬼没やから、俺らが気づかなかっただけなんとちゃうん。」とKさん。
隆は「違うよ。この猫はおかしいで。明らかにX先生をずっと見ているし、お経を聴いている。」と内心では思っていますが、口には出さずにいました。
一行がこれから仕事をするI社に到着し、先方の責任者と面談した時の事です。
なんと奇遇なことでしょう。その責任者の方は亡くなられた方の息子さんでした。
名刺を交わした時に責任者の方が
「X先生。あのX先生ですか?生前母がお世話になっていた。」
「そうです。」
「やはりそうでしたか。部下より今回X先生が我が社を表敬訪問されると聞いたとき、お名前に聞き覚えがあり、私も若い頃に何度かお見掛けしたことがあったので、ひょっとしたらとは思っていたのですが・・・。母の導きかも知れませんね。」
「先程、お母様のお墓にお参りさせて頂きました。お亡くなりになった事は存じておりましたが、なかなかお参り出来ずに申し訳ありませんでした。」その後故人の昔話になった。
(二)
その中で驚くべきことが分かった。
それはX先生の元へ通っていた頃の責任者のお母さんの事だそうです。
お母さんがX先生の元を訪れた時、何時も広縁の陽だまりの中に座っておられ、心地よさそうにされていた。丁度猫が日向で目を細めてじっとしている感じだったと。」
「やっぱりな」と隆は思いました。
I社の表敬訪問を終えその夜講演会と懇親会が行われるH温泉に向かう車中のことです。
「先生、お墓参りの時ですが」と隆。
「ああ、いらっしゃってましたね。」と先生。
「隆さんは気付かれていたようすでしたね。
Kさんはわかりましたか?」
「あ、あの猫ですか?」とKさん。
「突然現れましたからねぇ・・・」と先生。
「今夜の懇親会の会場に陰膳を用意しています。一緒に楽しんで貰おうと思っています。」「そうですか。きっと喜ばれますね。」と隆。
H温泉に到着した一行を待ち受けていたのは、X先生の来訪を歓迎する支援者様の手厚い出迎えであった。
部屋に通された隆とKさん。
二人は広い和室に泊まることになる。
部屋に入るとKさんが「広い部屋やな。二人で泊まるには広すぎるな。」と独り言。
その時から隆はザワザワ感を感じていたそうです。ただし嫌な感じは全くしなかったそうで、何かなと考えた時に思い当たる事が有りました。
Kさんが「浮かない顔してるやん。何かあったん?」と尋ねてきます。
「何も無いよ」と嘘をつく隆。
ここでザワザワ感のことをKさんに伝えても怖がるだけだと思ったそうです。
「昼間の猫、隆さんの感じた通りやったみたいやな。先生もそう言うてはったな」とKさんが話しかけてきた。
無用な恐怖を与えたく無いので「うん」と短く答え話を切り上げた隆。
X先生の講演会が終わり、歓迎会を兼ねた食事会が始まった。
隆とKさんは主賓席に連座している。
そこに先生が言われていた陰膳が用意されている。円形のテーブルで、場所は隆の隣だったそうだ。
和気あいあいとした雰囲気の中、食事会がすすんでいく。
隆のザワザワ感も強くなっている。
ただ嫌な感じはまったきしない。
隆のザワザワ感が一層強くなった。
隆は何となく隣の陰膳が気になっている。
Kさんは支援者の方達と笑顔で話している。
隆は呼ばれたように陰膳に目を向けた。
そこには小太りの優しい笑顔をした初老の女性の姿があった。
これかと隆は思ったそうです。
そう。陰膳の主、責任者のお母さんと思える方が嬉しそうに座って、X先生の様子や会場内の様子を見ています。
X先生が陰膳の方を見られ、隆に目を向け小さく頷かれまた。隆も小さく頷きました。
それを見て先生は支援者の輪の中へ行かれました。
隆にはX先生の頷きの意味がはっきり分かっていました。
隆にも見えているかどうかの確認です。
やはりこの初老の女性は依然先生の元へ通っておられた方のようです。
やさしい笑みを浮かべたまま姿が見えなくなりました。
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