第19話

摩訶不思議 十九章

一二三 一



十八章、玉造温泉のホテルの部屋での、隆とKさんの会話に戻ります。


(一)

「あの時みたいに怖い話と違うんやな。それやったら教えてくれ」とKさん。

「多分、先生も同じものを見ていたとおもうけどね。Kさんは見えなかったんやろ。」

「俺はあんたらと違って見えたり、聞こえたりせんからね。何にも見えなかったわ。見えたんは湯気だけや。」とKさん。

「そんなこと言うても、高千穂でサワサワされてたやん。素養はあるんとちゃうか?

そのうち見えるようになるで。その時は歓迎するで。こちら側にようこそ言うて。」

「アホなこと言わんといて。あんたらみたいに怖い思いしたくは無いわ。そんな話はいらんから温泉で何が見えたんか教えて。」

 「まあ、怖くも無いしどちらかと言うと面白いから、この時間から話しても大丈夫やねんけど、万が一ピシッ、パシッって鳴り始めたらごめんな。」

「また、そんなこと言うやろ。隆さん性格悪なったんとちゃうか。」

「いやぁ、念のために断っとかなな。」

隆は笑いながら「ほんまに怖がりやな」とKさんに言うと、温泉で見たことについて話し始めました。

 「あの時な、俺らの正面に露天風呂らしく岩場が設けてあったやろ。先生があの岩場を見てちょっとニコッとしてたんよ。」

「そんなん全然気づかへんかったわ。」

「そやろな。それで何を見て笑ってはるんやろと思ってあの岩場を見てみたんよ。そしたらな、岩の陰からちょいちょい顔を出す者がおるんよ。しかもその恰好が歴史の本か、飛鳥時代のドラマでしか見られへんような髪型と恰好してたから・・・。思い出してもおかしいわ。」と笑う隆。

「そんなんおったんやったら教えてほしかったわ。」とKさん。

「教えても一緒やん。見えへんねんから。」と笑いながら隆が続けます。

「あの美豆良(みずら)と呼ばれている髪を左右二か所でまとめる髪型で麻の着物着た子供がチラチラ見え隠れしてた。」

「何やのん。それ」

「う~ん。俺には聖徳太子の子供の頃かなって思えるねんけどな。こっちを見て向こうも笑ってたから、嫌な感じは一切なかった。

明日の朝先生に聞いてみ。先生も楽しそうやったから、悪い霊では無かったはずや。」

「そんなん見えたらオモロイわな。」

「要らんもんも見えるけどな。見たいか?」

「遠慮しとくわ」

「そやろな」

隆とKさん、この二人の会話はいつもの事なのだがさながらテンポの良い漫才のようだと隆は述懐していた。


(二)

 翌朝の朝食で顔を合わせた先生に、Kさんが「昨夜の露天風呂の事を隆さんから聞かせてもらいました。

隆さんは聖徳太子の子供の頃の様だったと訳の分からない事を言っているのですが、先生の目にはどんな風に見えていらっしゃいましたか?」とストレートな質問をぶつけます。

 先生は隆の方を見て笑いながら、

「Kさん、隆さんはよく見えていますよ。まったく私と同じものを見られています。

美豆良を結った男の子、聖徳太子様の幼少期のお姿でした。露天風呂の中で隆さんも気付かれたなと思っていましたが。やはりね。」

「実は神立橋の事があったので、何かあるかなと思ってはいたのですが・・・」

先生は楽しそうに話されたそうです。

次の目的地へ出発するまでの時間でKさんは

「どんな風に見えるん?はっきり見えるんかな?」と隆に尋ねて来ました。

 「それは、色々やで。昨夜みたいにはっきり分かる時もあるし、真っ黒い渦みたいなモヤみたいな時もあったし、S社のU君の時みたいに頭の中にイメージとして浮かんでくる時もあるしね。」

「ああ、S社のU君な。その話はU君から聞いたわ。隆さん凄すぎるって驚いてたわ。」

S社のU君、この話は別の章でお話ししたいと思います。

次の章ではKさんが真っ青になったエピソードをお話しします。


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