第18話
摩訶不思議 十八
一二三 一
ここからは前章で紹介したX先生とのエピソードを幾つかご紹介します。
東京での最終打ち合わせでX先生が本物であると確信した隆とKさん。
そこからはX先生との仕事にまい進する事となった。このX先生の支持者は日本全国にいらっしゃって、隆とKさんはX先生と共にあちこちを飛び歩くことになったそうです。
(一)
旧暦で十月の事を「神無月」ですが、それは全国八百万の神々が出雲に集まり、国家安泰、五穀豊穣、縁結び等の「神議」(かみはかり)をするので、各地には神様が不在となり「神無月」となりました。
しかし出雲地方においてはその逆で、全国より八百万の神々が来られるので「神在月」(かみありづき)とよばれています。
八百万の神々は出雲大社、佐多神社などで神議を行った後、万九千社(まくせのやしろ)で別れの宴をすませて各地へ帰られます。
神々が各地へ出立される所にある橋。
これが神立橋です。
(二)
X先生、Kさん、隆の一行が雨の中大阪より出雲へ向かって車で移動しています。
途中雨脚も強く、空は雨雲が一面びっしりと立ち込めています。運転をして頂いているのはX先生の支持者の方です。
移動の車中、隆はX先生と知り合い、色々な事を見聞きしていく中でX先生が話された事を思い出していた。それは「隆さんは伊勢神宮にお参りされていますか?何度も助けて頂いているからお参りしておかないとだめですよ。今度一緒にお参りしましょう。きっと鳥居をくぐるたびに風が吹きますよ。」
鳥居をくぐるたびに風が吹くとはどういう事なんだろうと隆はX先生に尋ねた。
「先生、鳥居をくぐるたびに風が吹くというのはどういうことでしょうか?」
「鳥居は結界です。その結界をくぐる時に急に風が強く吹いたり、雨が降ったり、それまでと違う事が起きる時があります。それは神様に参拝を歓迎されているということです。隆さんの場合は伊勢神宮、天照大御神様に守られているので、伊勢神宮の中に幾つか鳥居が有りますが、そこをくぐるたびに風が吹くと思いますよ。私もくぐるたびに風が吹くので。」と答えが返ってきた。
そんな事を思い出しながらぼんやりと車窓から外を眺めていた隆の目に、神立橋が見えてきた。雨は降り続いている。
「もうすぐ神立橋ですね。出雲大社の聖域に入っていきますね。」とX先生。
その時である。X先生の言葉で全員が神立橋を見た。急に雨がピタッと止み、分厚い雨雲の隙間から映画のワンシーンの様に光の帯が五筋射してきた。斐伊川に架かる400mくらいの橋である。一行を乗せた車が光の帯を受けながらゆっくり橋を渡り切った。
その途端ピタッと止んでいた雨がまた降りはじめた。
X先生が「歓迎されましたね。」とニッコリ笑いながら隆を見た。
一行は出雲大社への参詣を終え、玉造温泉で宿泊することになる。
(三)
車移動の疲れを癒そうと、温泉に浸かる三人。温泉に浸かりながら、神立橋で起きた事を先生に振ってみると、「天照様に縁の深い大国主命様がご祭神ですから。歓迎されましたね。」と言われたそうです。
そう言いながら先生は露天風呂の湯煙の向こうにある岩場に目をやって微笑んでいます。
「何かな」と思った隆もその方向を見たそうです。そこに隆は面白いものを見ます。隆の顔にも微妙な笑いが浮かびます。
隆はきっと先生と俺は同じものを見ているなと直感したそうです。
X先生と隆の様子を見ていたKさん。二人と同じ岩場を見ていますが先生と隆に見えているっものは見えていない様子です。
Kさんは隆の仕事上の相棒で、プライベートでも仲良しですが、怖がりで霊的なものは持ち合わせておらず、もっぱらX先生と隆に話を聞かされる立場にいます。
「先生、あの岩場の所、向かって右の角ですか?」との問いかけに「やはり見えていましたか。」と笑いながら先生が答えました。
「Kさんはみえていませんか?」先生が訪ねた。それに対してKさんは少し拗ねたように「岩しか見えません。何かあるんですか?」と。先生は答えずニッコリ笑って温泉から上がっていかれた。
「なあ、何が見えたん?」と隆に詰め寄るKさん。「後でゆっくりな」と隆。
お風呂を上がり、夕食を終え、明日の予定の確認と打ち合わせを済ませて部屋に戻った隆とKさん。さっそくKさんが隆に問い詰めます。「温泉で何が見えたん?」「ほんまに知りたいんか?怖がりやのに・・・」と隆。
「怖い話なんか?」
「そんなに怖い事も無いかな。」
「あの時みたいに怖い話と違うんやな。それ
やったら教えてくれ」とKさん。
Kさんの言うあの時とは高千穂に登った時のことである。
(四)
天孫降臨の地とされる高千穂に三人で登った時の事である。登ったと言っても道路が上まで繋がっていて駐車場から結界が有る場所までほんの少しだけ歩いて往復したにすぎないのだが。夜遅かったので真っ暗な中を車が上がっていく。駐車場に車を停め、結界の張ってある場所へと移動する。
隆は空を見上げた。沖縄の宮古島できれいな星空を観て感激したことがあったが、それとは比べ物にならない程きれいな星空が広がっていた。漆黒の空に満天の星。生まれてこの方こんなにきれいな星空を観たことはなかった。本当に宝石箱の様だった。
Kさんは唖然とした表情で星空を見上げている。不意に隆にザワザワ感が訪れる。
先生を見てみると、何やら手を払っている。袖に付いた雪を払うかのように・・・
先生と目が合った。
「いますね。」「はい。」と二人の間で短いやりとりが交わされる。
先生が「車に戻りましょう。」と言われた。
二人のやりとりを聞いたKさん。聞かなくても良いのに「何がいるん?」と隆に聞いて来る。「そんなことより、前だけ見てしっかり歩きや。先生と俺から離れんように」と隆。
先生の何かを払いのけるような仕草は続いている。隆も頭の中で来るな、来るなと念じ続けている。車に三人が乗り込んだ。街灯も無い真っ暗な道を車は下っていく。
しばしの沈黙の後、先生が口を開いた。
「ほら、あそこ。目が光ってますね。動物たちが見送ってくれていますよ。」
カーブが来るたびに動物の目がライトに反射してキラキラ輝いている。空には満天の星。
ホテルの自室に戻って一息つきながら先程のザワザワ感について考えていると、ドアをノックする音がした。Kさんである。
もう聞いてくることは決まっている。高千穂の駐車場での事しかない。
案の定Kさんは高千穂の駐車場で何が有ったのか知りたがった。怖がりの割には知りたがりである。
「さっきな、先生はなんか払い除けるみたいなことしてたし、あんたは急に怖い顔になってたで。いったい何が有ったん?車に戻る間に何かサワサワ手に触って行った感じがしたんやけどな。」
「正解やわ。」
「えっ?」
「結界から離れた時に急に例のザワザワ感がしたから、おかしいなと思って先生を見たらもう払い除けるような仕草をしてたから、良からぬものが来てるのは分かった。Kさんの横にも来てたわ。それがさっきKさんが言ったサワサワしたやつ「それが前だけ見て先生か俺から離れんようにしっかり歩けって言ったことやねん。」
「なにやったん?」
「俺の所とKさんの所に来たのは動物霊やと思う。先生の所にも動物霊は行ってたと思うけど、違うのもおったからなあ・・・」
「違うのんて何?」
「駐車場あったやろ。あそこの端っこに古いのがおったんよ。真っ黒いのが。」
「人か?」 「多分ね」
翌朝朝食の時に先生が「昨夜はお疲れさまでした隆さん」と笑いながら話しはじめました。Kさんが知りたがるだろうと思ってのことだとすぐに分かりました。
「昨夜はKさんと隆さんの所には動物が、私の所には動物と人が来ていましたね。」
「平気なんですか?」とKさん。
「払えばいいんですよ。」と笑いながら先生。それで払っていたのかと納得した隆。
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