第15話

摩訶不思議 十五

一二三 一



前章の隆の母親の最後の言葉「何方に守ってもらっていると思ってるんや」・・・

この「何方」のエピソードを十五章、十六章で取り上げていきます。



(一)

 それは隆が大学生の頃の話です。

プラモデルを作るのが趣味であった隆は、夜遅くまでよく色々なプラモデルを作っていました。特にT社の戦車や車のプラモデルが好きで、戦車には迷彩塗装を施したり、車にはレースカーのカラーリングを模したりして楽しんでいました。

11月下旬の寒い夜の事です。何時ものようにプラモデルを作っていた隆でしたが、急に眠くなってきました。時間は午後10時を過ぎた頃です。何時もならまだまだ寝ない隆ですがこの夜は早く寝る事にしました。

当時の11月下旬は結構寒かったそうで、隆は雨戸を閉めて、少しでも寒さが和らぐようにしました。当時隆の住んでいた家から30メートル位離れた所を家と平行に高架で電車が走っていました。

雨戸を閉める時にも電車が通過していきました。午後10時過ぎの割には乗客が沢山乗っていたそうです。乗車口に人が立っていると表情が見える程の近さであったそうです。

 寝るために作りかけていたプラモデルを片付けている時に、バリを削るために使っていた彫刻刀が一本足りない事に気付きました。

探したのですが見当たりません。おかしいなあと思いながらも眠気が強く、明日探せばいいかと寝床に潜り込みました。

隆は左を下にして、窓の方を向いて寝ます。

余程眠たかったのでしょう。隆は直ぐに眠ってしまいます。


(二)

隆は不思議な夢を見たそうです。

母親と姉と隆の三人でお伊勢さんにお参りをする夢なのですが、お参りするシーンだけでは無かったそうです。

三人が歩いていると海から白装束の女性が上がってきます。それを長い真っ白な髪を振り乱した頭の先からつま先まで真っ白な老婆が、鬼の様な形相で「お前は修業が足りん」と叫びながら上がってきたばかりの海に突き落とします。それが何度も何度も繰り返されます。隆達三人が近づいて行きます。老婆が隆達の方を見て打って変わって慈愛に満ちた表情(仏様のようだったと隆は感じたそうです)で「ようお参り」と頭を下げて言ってくれます。

そこへまた海から女性が上がってきます。もう体力も落ちている様子で這いつくばって上がってきて老婆の元へ来ました。老婆はまたしてもその女性を突き落としました。

そして三人へは優しい笑顔を向けます。

ふと隆は目が覚めました。変わった夢を見たなと思い出しながら寝返りを打とうとした時です。真っ暗な部屋の中に閉まっている雨戸の隙間から眩しい位の光が射しこんできました。隆は「お昼か?寝過ごした!」と思い飛び起きたそうです。電気を点けて雨戸をあけます。外は真っ暗でした。「えっ!なんで?

お昼と思うぐらい眩しい光やったのにな・・・」隆は時計を見ます。午前二時、そう草木も眠る丑三つ時です。当然電車も走っていません。おかしいなあと思いながらもう一度寝ようとした隆の目に驚くような恐ろしい光景が映ります。

枕元に寝る前に探していた彫刻刀が刃を上にして立ってます。隆が寝返りを打てば丁度右の首筋に刺さる形で・・・。

あの光が射しこまなければ寝返りを打って、首に彫刻刀が刺さっていた。

それを想像して隆は身震いをしました。


(三)

隆は階下で眠っている母親を起こし、今起こった話をしようとすると、「何やのん?こんな時間に。何か出たんかいな?」と不機嫌そうに言います。今起こったことを話して聞かせると、母親は優しい口調でこう言いました。「隆、お伊勢さんに感謝して寝なさい。ここからやったら東やから、東に向かってお伊勢さんに向かってお礼をして寝なさい。」

そう言うと再度眠りにつきました。部屋に戻った隆は母親に言われた通り東を向いて正座し、お礼を述べて眠ることにしました。

勿論彫刻刀は片付けています。

布団に潜り込んだ隆でしたが、なかなか眠れずにいます。ザワザワ感や嫌な予感はまったく無いのですが、夢が気になって仕方が有りません。「あの老婆はいったい誰だろう?あの女性は?どうして海につきおとされていたんだろう?その時のあの老婆の怖い形相。それに比べてこっちを向いた時のあの優しい笑顔・・・」考えれば考える程不思議な夢でした。そして何よりも不思議なのはあの眩いばかりの光でした。

夢は夢として片付けられるのですが、あの光だけは説明のつけようがありません。

近所にサーチライトや灯台も有りません。

しかも雨戸の隙間から狙った様に隆の顔を照らすなんて・・・

そう考えた時に母親に言われた言葉が浮かんできます。「お伊勢さんに感謝しなさい。」 母親は何か気付いているのだろうか・・・

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