第13話

摩訶不思議 十三

一二三 一


(一)

皆さんの中にも亡くなった方が、生前仲良くしていた人達や家族、親戚の元に現れるとか尋ねて来るとか、亡くなる直前に夢に出て来るとか言うような話を耳にされた方がいらっしゃると思います。

今回はそれに纏わるエピソードです。

 隆の父親は93歳で他界しました。その父の友人で隆を子供の頃から可愛がってくれていたRさんが亡くなった時の話です。

 その訃報が届いたのは夏の日曜日、昼前のことでした。隆がまだ27歳の頃だったそうで、Rさんが少し前に体調を崩して療養中であることは隆の耳にも入っていました。一度お見舞いに行かなければと思っていた矢先にRさんの訃報が届きます。

その日の明け方、苦しまずに眠っている様に穏やかな表情で逝ったと。

悲痛な面持ちでお通夜に参列する用意をする隆の両親。

隆も参列するつもりでいたところ、今夜は何時になるか分からない、帰らないかもしれないので、翌日も仕事の隆は留守番をする事になりました。

とりわけ父親は大きくショックを受けている様子でしたが、気を取り直して二人で出かけて行きました。

二人を見送った隆は妙な胸騒ぎを覚えたそうです。「あれっ?何かな・・・」見送った二人の身に何かあるのかなと一瞬考えた隆でしたが、家の中に入ってそれは違う事に気付きました。なぜなら家の中に入った時から例のザワザワ感がし始め、次第に強くなってきたそうです。

これは両親の身では無く、自分に何か起きるのかもしれないなと感じたそうです。


(二)

一時間半ほどが過ぎた時、今日はやはり帰れそうに無いと出かけた両親から連絡が入りました。とりあえず両親は無事。ということは、やはりこのザワザワ感は自分の身に何か起きるということかと、ある意味覚悟を決めた隆でした。

お通夜は午後6時30分からとの事で、もう間もなく始まる時間でした。

早めに夕食を摂り終えた隆が自室に戻ろうとした時にザワザワ感が一層強烈になったそうです。応接間の前を通りかかった時、何故かドアが半開きになっています。

閉めようとドアに近づいた隆の目に飛び込んできた光景は・・・

 Rさんが隆の家を訪れた時にいつも座っていた椅子に、Rさんが座っている後ろ姿がそこに有りました。

病気になってからは随分お痩せになっていたそうですが、そこに座っているのは、立派な体躯で壮健な頃のRさんでした。

 今にもこちらを振り向いて、ちょっと頬が赤みを帯びてニッコリ笑いながら「隆、元気にしているか?」と言いそうでした。

隆はその見慣れた後ろ姿に「おじさん、おじさんは今朝亡くなった。今僕の両親もおじさんのお通夜に出かけてここにはいないよ。僕も行きたかったんだけど、行けなくてごめんなさい。お別れの挨拶に来てくれたのかな。

ありがとう。成仏して下さい。」と呟いて掌を合わせた。

Rさんの後ろ姿が頷いた様に見えた瞬間、Rさんの姿が何処ともなく消えて行った。

それと同時に隆のザワザワ感も消えている。21時を少し回った頃、母親から連絡が入った来た。

「何もない?」と。恐らく母親は察知していると思った隆は「Rさん来てたよ。いつもの応接間の椅子に座ってた。」と応えた。

母親は「やっぱりね。お父さんとは親友やったし、あんたの事可愛がってくれていたから

家に来るんじゃ無いかなって思ってたんだけど、あんたなら大丈夫やと思ってた。怖なかったやろ?」と電話の向こうの声が笑っている。この親子の妙な信頼関係がそこにある。

「うん。怖くはなっかた。別れの挨拶をしに来たんとちがうかな。」と隆。「きっとそうやわ。あんた来てへんしな。」と母親。

電話を切った隆に又もやザワザワ感が沸き起こる。

「おかしいな。Rさんはもういないはずなのに・・・Rさんの時のザワザワ感とこのザワザワ感は何かが違う」隆はこのザワザワ感に嫌な感じを受ける。

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