第12話

摩訶不思議 十二

一二三 一


隆のザワザワ感にもその都度微妙な違いがあるようです。


(一)

その夜、急に人を送っていく事になった隆は胸にザワザワ感を覚えていた。

夜になって雨も降り始め隆の中では「いや~な予感」がしている。しかし送っていく事を断れない。こんな時隆は数珠を持っていく事にしている。ザワザワ感が強い時、決まって隆は奇妙な体験をする。そんな時には母親から教えられた、古来より魔除けとされている数珠をポケットに忍ばせていく事にしている隆であった。

夜も更けてきて出発の時間が近づいてきている。一向にザワザワ感は治まらない。むしろ強くなっている。どういう訳かこの日は頭痛までしている。隆の「嫌な予感」に拍車が掛かる。「何とか断れないかな」と思い遠回しに聞いてみたが、無理だった。

渋々隆はハンドルを握ることになる。

 時計の針は夜の10時を指していた。

この時間から送って行って戻ってくると早くても11時を回る。雨の夜・・・もう少しかかるかも知れないと隆は思った。客人を後部座席に乗せ、運転席に座りエンジンを掛け、車を走らそうとした瞬間、やはりゾクッとした。「これはマズイな。慎重に運転しないといけないな。」と隆は思った。

当時隆の自宅は大阪の北部に有ったそうである。そこから大阪市内まで客人を送り届ける道すがら事故を二度見たそうである。しかしザワザワ感は消えない。

「おかしいなあ。事故現場を通ってもザワザワ感が消えない。まだ何かあるのかな」と自問している。そうこうしているうちに客人の家に到着した。客人を無事に送り届け帰路に就いた隆、その時点で午後10時45分であった。依然として強いザワザワ感が続いています。隆はコンビニに入りホットコーヒーを飲んで、気分転換をしようとしますが、ザワザワ感は抜けません。

コンビニで休憩をしたので午後11時を過ぎてしまっています。

その後若干飛ばし気味に車を走らせる。


(二)

大阪の地理に詳しい方は直ぐに分かると思老いますが、新御堂筋を北に向かって車を走らせて行くと、171号線と立体交差する地点が有ります。その直前で側道に入った隆。

30メートル程で左折しようとします。

その場所は現在コンビニが有りますが、当時は無く、信号も無く街灯と横断歩道が有ったそうです。夜間で雨。隆は慎重に車を左折しようと勧めました。横断歩道は側道に入った段階から見えています。一旦停止こそしませんでしたがゆっくりと左折に入りました。

その時です。自転車に乗って青色のレインウェアを着た男性が突然目の前に現れました。隆はフルブレーキを掛けましたが間に合いません。「引っかけた!」と思った瞬間信じられないことが起こりました。何とその自転車

に乗った男性が車の中をすり抜けたのです。隆は自分の目を疑いました。慌てて車の外に出ました。突然目の前に自転車に乗った男性が現れた。左折する時にちゃんと歩行者の確認をした。誰もいなかったし、自転車も無かった。寝ぼけてなんかいない。けれども目の前に突然現れた。ブレーキを目一杯掛けたけど間に合わなかった・・・。そんな思いが頭を過ぎる。雨の中自転車に乗った男性を目で追う隆。その時である。男性の顔がこちらを振り向いてニヤリと笑った。隆は雨の中で立ち尽くした。何故なら、その振り向いた男性が、顔だけがくるりと回って隆の方を見ていた。フクロウのように・・・身体は進行方向を向いている。

何処ともなく自転車に乗った男性が消えて行った。ハッと我に返った隆。身体の震えが止まらない。今の出来事は何なんだ・・・

人を轢かなかったことは本当に良かった。でも車の中をすり抜けていった。顔だけがこっちを向いてニヤリと笑っていた。気が付けば隆のザワザワ感が無くなっていた。どうやら今の出来事を知らせていたようだ。

日付が変わり自宅に帰りついた隆は家人に先程起きた話をした。気味悪い話やけど、人を轢かなくて良かったが家人の感想だった。

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