第11話

摩訶不思議 十一

一二三 一


ここからは隆が経験した不思議体験の数々をお話しようと思います。

これを読んで下さっている皆さんでしたら「ラップ音」と言う言葉を一度は耳にしたと思いますが、隆が真剣にこれまでの体験や心霊の話をすると、やはりピシッ、パシッと言ったラップ音がします。この摩訶不思議の為に隆と対談している時にもラップ音がしていました。有る事がきっかけで隆は真剣に心霊現象や幽霊、自身の体験談を真剣に話す事が無くなりました。

そのきっかけになった事について話を進めて行きましょう。


(一)

 とある夏の日、団体旅行で沖縄へ二泊三日で出かけた時の事です。お決まりの観光コースであちこち観光し、南部戦跡地巡りで旧日本軍や民間人が立てこもり、アメリカ軍に対して頑強に戦って、最後は集団自決を行ったと言われる洞窟を訪れた時のことである。

 その場所に解説文が有りそれを読むと当時の様子が分かる。一緒にツアーに参加していた人々はその説明文を熱心に読んで、ああでもない、こうでもないと話している。隆はその集団自決が行われた場所をじっと見つめてみた。「違う。ここじゃないな。」と隆が呟いた。それを聞いたツアーガイドが「何が違うのですか?」と隆に尋ねた。

「集団自決の場所ですよ。ここじゃ無いですよね。」そこから更に奥に入った所で隆の足が止まった。並んで立っていたガイドに、隆は

奥を指さして「あそこですね。集団自決された場所は。」と話した。

ガイドの表情が一変した。「もしかして貴方には何か見えるのですか?」「今ははっきりとした霊体が見えてはいません。あそこの隅に黒々とした渦が回っているので、あそこだと感じています。最初の場所は明らかに違います。」ガイドは隆に「貴方の仰る通りです。

最初のところでは無く、貴方が指さした場所こそが集団自決が行われた場所です。」と告げた。その会話を聞いていた団体旅行の幹事の

T君が「隆さん、今夜余興で怪談話をしてもらえませんか?」と言ってきたそうで、隆は「う~ん。話すのはいいけど、後が大変なことになるかも知れないよ。それでもいいのかな?」と答えた。T君は「構いません。何かあれば会社で責任持ちます。」と答える。

その夜仕方なく隆は怪談話をする事になる。


(二)

隆はT君に本気では話さない事を了承させていた。これまでの経験と、何かの本で読んだ事があって、隆のように霊能力が強い人間がそういう話をすると、霊が集まりやすくラップ音がしたり、感受性の強い人が聴衆の中にいると、おかしな行動をとる人がまれに現れると。

隆の怪談話が始まろうとしていた。隆は「皆さんの中には霊の存在を信じられない方もいらっしゃると思います。今から話す事は私自身の体験談です。信じる、信じないは皆さんで判断して下さい。ここにいる全員が信じなくても私自身が実際に体験して来た事は変わりません。」と切り出した。

ホテルの宴会場の空気が重くなるのを感じた。用意されたローソクに灯がともされ、照明が落とされる。夏の風物詩怪談噺の始まりである。隆は「まずいな」と思ったと言う。

何がまずいのか・・・あまりにも怪談噺の世界が出来上がり過ぎた。しかも沖縄である。多くの軍人、一般人が犠牲になった沖縄。「何事も起きなければいいのだけれど」と思いながら話を進める隆。極力必要以上に怖くならないように話をしているのだが、時々ローソクの炎が大きくなったり、パチッと鳴ったりし始めた。話しながら隆は全身に鳥肌が立つのを感じた。ゾクっとした。そこからピシッ、パシッとラップ音が鳴り始めた。

 突然風も無いのに一本のローソクが揺らめいて消えた。A社から旅行に参加している女性が気持ち悪くなってきたと訴えた。

勿論隆も場の空気が重くなっていることは感じている。その女性参加者の左にもう一人女性が見える。無表情で隆を見ている。

A社の女性は「止めて。私憑りつかれてしまう。」と泣き出した。幹事のT君が機転を利かして「今夜はここまでにします。」と言って照明を点けた。隆は除霊については学んだことが無いそうだ。この時も除霊は行っていない。出来ないから。 ただ何時ものように「その人に憑いても貴方にしてあげられることは何もない。私に憑いても何もしてあげられない。」とひたすら繰り返すだけであった。

A社の女性社員と翌日モーニングを食べながら話をすると、彼女も見える、聞こえる人間であった。昨夜程恐怖を感じたことはこれまで一度も無かったと話した。ただ昨夜から左肩が重くてしんどいと話す。それもそのはずで隆はその女性の左に昨夜の霊体を感じている。隆は一生懸命念じた。「その女性から離れて成仏して下さい。ここは貴女のいる場所ではありません。」と。


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