第10話

摩訶不思議 十

一二三 一


今回も車のエピソードをお伝えします。


(一)

名神高速道路を京都方面から大阪方面に向かって走行していたそうです。

助手席には隆の母親が乗っていました。

京都を出発する際にザワザワ感を覚えたが、

母親が一緒なので何とかなるだろうと思い、

大阪方面へ向けて車を走らせ始めた。

時計の針は間もなく午前0時をさそうとしています。

当時の名神高速道路は現在のものと少しレイアウトが違っていたそうですが、

基本的なトンネルの位置は変わっていません。

 二人を乗せた車は交通量の少なくなった高速道路を時速100キロ程のスピードで追い越し車線を走っています。

前方にトンネルが見えてきました。トンネルに入ると前方にトラックが走っている。

トラックの赤いテールランプが右に左に小刻みに揺れている。

隆のザワザワ感が強くなっている。

居眠り運転かなと思ったそうで、グングン近付いて行っていた車間距離を、巻き添えを食わないように少し空けた。

相変わらずトラックはユラユラ走っている。トンネルは緩く右にカーブをしていて前方を走るトラックが、ググっと右の壁際に寄って行った。ぶつかる!と思った隆はブレーキを踏みこむ。嫌な予感がして車間距離を空けて正解だったと思った瞬間、前方を走っていたトラックが右の壁にスッと吸い込まれた。

「エツ」隆は自分の目を疑った。何かの見間違いっだたのかと思いながらトンネルを抜ける。トンネルを抜ければさっきのトラックが走っていると思っていたのだが、トンネルを抜けるとアップダウンは有るものの、ほぼ直線でトラックどころか、普通車すら走っていなかった。

「あれっ。トラックがいない」と隆は首を傾げた。その様子を助手席から見ていた母親が「トラックやろ?あんたも見たんか?」と問いかけてきました。「うん。前走っていたトラックが」と言うと母親が「トンネルの中で右の壁に吸い込まれた。」と隆が見た光景をズバリ話した。

「どこから気が付いた?」と母親。

「トンネルに入って前にトラックが出てきたときに、ザワザワ感が強くなって嫌やなって思ってた。右に左に揺れてたし。」

「あのトラックは走ってなかったな?ユラユラ宙を浮いていた。」そこから後の自宅までの時間が早かったことは言うまでもない。


(二)

時刻は午後11時を少し回ったところだった。いつになく寝ぐるしくて、ふと車を走らせに行ったある夏の夜の出来事。

そのエリアは関西では少しは有名な心霊スポットである。外の空気が吸いたくて、エアコンを掛けずに、窓を開けて車を走らせていた隆に、例のザワザワ感が急に現れた。何かなっと思いながら車を走らせる。左右にカーブを切りそろそろ帰るかと自宅の方へ向けUターンをする。 その瞬間、ザワザワ感もさることながら、強くゾクっと した。

これはおかしいなと感じながら自宅へ向けて車を走らせる。左カーブ・・・左カーブを抜けると前に赤い乗用車が現れた。すれ違った覚えはない。以前名神高速道路で見たトラックと同じ感じがする。ユラユラと漂っている感じがする。自宅へ戻るにはもうすぐ左へ曲がらなければならない。その左折点を赤い車が抜けてゆく。隆は曲がろうと思うのだが、何故か曲がれずに赤い車の後をついて行く。

「これは危ない。引きずり込まれる」と隆は思った。何とか逃げ出さないと・・・

前方を行く赤い車は相変わらず左右に揺れながら走っている。走っているというよりも浮いている様に見えたそうです。

何故かその赤い車に引き寄せられる様に走っている。

隆のザワザワ感が一層強くなっていて、隆は必死で逃れようとしているが、赤い車の引力にも似た力を断ち切れないでいる。

子供の頃に母親に言われた言葉が突然頭の中に蘇ってきた。「僕は何もしてあげられないよ。」努めて冷静に繰り返した。すると不意に赤い車が消え、それと同時にザワザワ感も消え、車をコントロール出来るようになった。それ以来この道を幾度となく通ったが、あの夜の赤い車とは一度も遭わなかった。

 このエピソードの初めに関西では少しは有名な心霊スポットと紹介している通り、この道では色々な体験をしているそうです。

ある時は和装で丸髷を結った女の人が立っていたり、子供の顔が浮いていたりと。

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