第8話

摩訶不思議 八

一二三 一


今回は少し寄り道になりますが、隆の親友M君の実体験をお話します。


(一)

M君は大学卒業後様々な職業を転々とします。旅館の出張所の営業、広告代理店、

コンビニ店員等を経て、何を思ったのか長距離トラックのドライバーになりました。

その彼と久しぶりに会って話した時のことです。「なあ隆。昔から隆には不思議な体験がいっぱい有ったよな。最近はどうなん?やっぱり見えたり、聞こえたりしてるんか?例のザワザワ感もまだあるんか?」と珍しいことを聞いてきます。

M君は怪奇現象、心霊現象等には否定的な男でしたから意外な質問に隆は何かあったなと察知しました。「そうやな。そのあたりはあんまり変わらへんわ。M君こそ何かあったんか?タクシードライバー、電車の運転手、長距離トラックドライバーはよく奇妙な経験するって聞いたことあるで。M君長距離乗ってるんやろ?何か奇妙な事あったんか?」それを隆に聞いて欲しくて会いに来たということだった。

M君がボソボソと話し始めた。話すうちにM君の表情が硬くなっていく。どうやら今まで自分では経験していなかったから、信じていなかった、信じられなかったような事に出会ったようだ。果たしてその内容とは・・・

長距離ドライバーになって半年ほどが過ぎた夜にそれは起こった。M君は突然の眠気におそわれたそうである。それまで何ともなかったのに急に眠くて、眠くてどうしようもなくなったと。何度か走っている道なのですぐ近くに大型トラックを停めて仮眠出来る場所が有る事は知っていた。M君は眠気と戦いながらそこまで車を走らせる。停車し安全を確認して仮眠をとることにしたそうである。

コンコンとドアをノックするような音で目が覚めたM君。時計を見ると1時間ほど眠っていたようである。身体を起こして窓の外に目をやった。街灯の薄明りで周囲はぼんやり照らされている。誰も居ない。サイドミラーで車の両側を確認してみたのだが、誰もいないし、自分の大型トラック以外他車が停まれる余地も無い。その時は風で何かが当たったか、他の車が跳ねた石でも当たったのかと思ったそうだ。

まだ少し眠いのでもう少し寝ようとした時にまたもやコンコンとドアを叩くような音がした。M君はすぐにサイドミラーを見て確認をしたそうである。そこには誰も映っていなかった。トラックの後ろは見えていないので後ろかなと思い、運転席から降りてトラックの後方に回ってみたが、そこにも誰もいなかった。いたずらにしてはひどいなと思いながら運転席に戻った。次にまたノックされたら即座に運転席から飛び降りて、犯人を見つけてやると意気込んで運転席で待っていた。

暫くするとコンコンとドアを叩く音がしたので、M君は即座に車外へ飛び出しトラックの周りを走って見て回った。そこには誰もいなかった。流石に気持ち悪くなったM君。トラックを走らせ最寄りのドライブイン、トラック溜まりへ車を停めた。


(二)

店に入ってコーヒーを注文し、顔なじみのドライバーが二人いるテーブルについた。

そのドライバーから「どうした、何かあったんか?顔色悪いぞ」と言われついさっき起こった不思議な出来事を二人に話したそうだ。すると「ああ、あそこの空き地か?聞いてなかったんか。あの空き地では同じ目に遭ってるドライバーが何人もいる。最近はあそこには誰も停めない。」と言われた。

聞くところによると。以前大型トラックと乗用車の事故があって、長距離トラックのドライバーの居眠り運転が原因で、乗用車に乗っていた家族三人が亡くなったそうで、その後からあの空き地にトラックを停めると、例のコンコンとドアを叩く音がするが誰もいないという現象が起きているとのことで、お前もやられたんかと言われたそうである。

 M君は俺に何か変なもの憑いてないか見てくれと言い出した。隆はじっとM君を凝視している。「大丈夫。何も憑いていないと思うよ。それはその場所の地縛霊やと思う。」実際のところ隆は今日M君と会うことになった時から会っているその時でも、ザワザワ感も嫌な予感もしなかった。

その後このM君とは連絡が取れなくなっている。

四国に行ったとの噂はあるのだが・・・

元気でいることをねがっている隆であった。

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