第7話

摩訶不思議 七

一二三 一


隆の予知(そう呼べるかどうかは別にしてここでは予知とします)についてのエピソードを幾つかします。

 予知夢のところでお話ししたような事もその中の一例ですが、ここでは夢ではなく感じたことを中心にお伝えします。


(一)

第六章で出てきたM君と同じくらい仲の良かったN君が登場します。

高校三年の夏休み別々の高校に通っていたM君、N君、隆の三人は海岸でキャンプをする事になりました。キャンプ自体は何事も起こらずワイワイガヤガヤと馬鹿話で盛り上がり夜更けまで騒いで眠りにつきました。

翌日自宅方面へ帰路を進む三人のバイク。

先頭の隆が何か思いついたように路肩にバイクを寄せて停まりました。

追いついてきたⅯ君とN君。

「どないしたん?」とM君。

その時隆達は自宅方面へ帰る道の分岐点にいました。いつもは交通量は多いが道がきれいで信号の少ない方の国道を迷いなく選ぶのですが、その日の隆には妙なザワザワ感が朝からしており、この分帰路でそれが一気に膨らんだのでした。バイクを停めて両方の道を見比べた隆の目には、いつも通る道がもやでかすんだように見えました。しかもザワザワ感が強く有ります。もう一方の道、路面が悪く信号も多い道、こちらにはもやは見えずザワザワ感もありません。隆は二人に「なあ、今日は旧の国道走ってかえろう」と言いましたが、N君が「新しい方で帰ろうや。旧国道は信号が多くて道も悪いやん」と言って聞きません。戸惑っている隆とM君をおいてN君は新国道を自宅方面へ走り始めました。

仕方なくM君と隆が後を追います。

隆のザワザワ感は自宅方面に進んで行くにつれて強くなってきます。信号でM君と並んで停まりました。「嫌な感じがずっとしてるねんけどな」と隆が言うと「そうやと思たわ。いつものお前やったらあんなとこで停まらへんもんな。何かあるんか?」「こっちの道がかすんで見えたんよ。ザワザワもずっとしてるしな。」と隆。信号が変わった。前方にN君らしきバイクが見えてきた。

自宅まであと10キロ位の所まで戻って来て取り越し苦労やったかと隆が思った時にそれは起きた。


(二)

その場所は軽く登りがあってそれに続く下りが緩やかに続いている。隆達がようやく先行したN君に追いつこうとしている時にそれは起こった。

N君が運転するバイクが左により初めた。当時は片側4車線あったとのこと。隆は何かなと一瞬思って追いつこうとアクセルを開きかけた時。N君のバイクは左のガードレールにぶつかり、N君はガードレールを乗り越えて路側帯に転落した。N君のバイクが隆の前にクルクルと横転している。

慌ててバイクを停めて駆け寄る隆。

N君の右足から骨が飛び出していた。ヘルメットも削れていたので、ヘルメットを被っていなければもうこの世にはいなかったかもしれない。少し遅れてM君が駆けつけた。

通行人や他のドライバーの助けを借りて、救急車を呼び、警察に連絡、N君の事故ったバイクを邪魔のならない場所に移動させて。

当時は携帯電話など無い時代で救急車や警察への通報、家族への連絡で一苦労した。

この事故が原因でN君は右足がある程度までしか曲がらなくなり身体障碍者手帳を持つことになった。病院でM君が「やっぱりな・・・。あの分岐点でお前の言う事聞いてたらこんな事にはならへんかったのにな」とつぶやいた。隆にもそれは分からない。ただただ悲惨な結果に驚いていた。そして無理にでも戦闘を走っていた自分が旧国道へ入って行けばよかったんじゃなかったのかと考えていた。


(三)  

このN君に纏わるエピソードはあと二つあって、それを紹介しましょう。

N君は幾分良くはなったものの右足を引きずっている。時々あの時隆のいう事を聞いていれば良かったと後悔している。当時N君は隆のクラスメイトのS君と隆を通じて仲良くなっていた。S君は当時まだそんなに多く走っていなかったナナハンに乗っていた。

あんな4事故にあったにもかかわらずN君はそのナナハンによく同乗していたようで、夜に隆の元に来るという約束をしていた。隆の家とN君の家は歩いて5~6分の距離ですぐ近くであった。約束時間に遅れる事もよくあるN君なのだが、その日はいつもと違った。何が違うのか・・・そう隆は嫌な予感、例のザワザワ感を感じていた。まだ約束の時間には早いのだけれど、何か気になる。隆はN君の家に向かった。N君の母親から隆の家に行くと言って出たよと聞かされ、慌てて自宅に戻ったがやはりN君の姿は無かった。

約束の時間が過ぎてゆく・・・

5分すぎ10分すぎ、やはりN君はやって来ない。

隆の中で嫌な予感が膨らんでいく。

約束の時間から一時間が経過しようとした時に、隆の家の電話が鳴った。

N君の母親からであった。S君のナナハンに同乗していて、事故に遭い病院にいるとの事で、今から駆け付けるということであった。後日談になるがN君が隆の家に向かっている途中でS君と会い、隆との約束をすっぽかしてS君とドライブに出かけて事故に遭った。

乗る時に隆との約束が頭をよぎった、やっぱりあのままお前のところに来とけばよかったんやと話していたそうである。


(四)

 もう一つのエピソード・・・これはN君にとっては災難以外の何物でも無かった。

隆とN君は学部こそ違うが同じ大学に通うことになった。懸命のリハビリでN君の足も随分動くようにはなっていた。時々無免許で車の運転も出来るようになっていてN君は教習所に通わず飛び込みで自動車運転免許を取ろうとする。仮免許を取ったN君は隆の車に「仮免許練習中」のプレートを掲げ昼夜を問わず練習した。

いよいよ明日本試験に臨むという日に、「「そしたら明日の朝6時半においで。一緒に車で試験場まで行くわ」と隆が伝えた。

当日の朝約束より早くN君がやってきた。

隆も用意は出来ていたのだが、やってきたN君の顔を見た瞬間に何とも言いようのない悪寒が走った。隆の中で警鐘が鳴り響く。

「これはあかん。一緒に行ったら碌なことにならへん。」迷ったが隆は「頭痛くて一緒に行かれへんわ。バイク貸すからバイクで行っておいで。」とN君を送り出した。

30分ほどして警察から連絡が入る。

「貴方のバイクに乗ったNさんが、国道〇号線で信号待ち中に居眠り運転の車に追突されて、ケガをして病院に運ばれました。

そんな事ってあるか?と隆は思ったそうである。さっきN君を見た瞬間に身体を貫いた強烈な悪寒、それがこのことを知らせていたのかと隆は思った。

この時のN君、またもや右足を骨折し手術、リハビリを繰り返すことになった。

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