第6話

摩訶不思議 六

一二三 一


第二章の冒頭で触れた予知、予知夢についての隆の話をします。

ザワザワ感がある場合は自分の身に何かが起こる可能性がある・・・

ここではその例をいくつかお話したいと思います。


(一)

隆が中学生の頃、親友と二人で約一週間九州方面へ旅行に出かけました。その道中で起きた事です。

春休み大阪駅より夜行の寝台列車に乗って二人は旅立ちました。最初は初めて親元を離れての旅にウキウキしていた隆でしたが、何かしら嫌な胸騒ぎがします。例のザワザワ感です。寝付けずに車窓から外を眺めていた時の事、列車が停車予定でも無い場所で急にスピードを落とし、遂には停車してしまいました。

親友も寝台から出てきて、「なにやろ?こんな所で停車するはずないのに」と。彼は鉄道マニアでこの旅行もすべて計画を立て手配してくれていたので、旅程、列車時刻等熟知していました。

場所は岡山と広島の間だったそうです。田んぼなのか畑なのかが広がり、あたり一面暗闇で、遠くに民家の灯りが所々見えていたそうです。車内アナウンスがあり列車が徐行を始めた時、隆のザワザワ感が強くなってきて、いよいよ列車が止まった時には気持ち悪くなったそうです。

外の空気を吸おうと窓を開けて顔を出して深呼吸をした隆の目に、ライトに照らされた列車に撥ねられた人の死体(バラバラだったので死体だと思うとのことです)が飛び込んできました。以前にも殺人事件の死体を目の当たりにしたことがある隆ですが、それは人の形をしていてこの時見たものとはまったく違うものでした。親友に「あれ!」と指さしました。彼はそれを見て吐きそうになっていました。隆も気持ちが悪くなりました。ザワザワ感はこのことだったのかと思いましたが、一向にザワザワ感は治まりません。


(二)

再び列車が動き出しました。車内アナウンスによると人身事故が有ったそうです。

事故現場を後に列車は進んで行きます。隆は時々通り過ぎてゆく町や村の灯りをぼんやりと眺めていました。家々に点る灯りを見てはどんな家庭があるのだろうかと考えながら、幾つもの町が目の前を通過しました。

それでもザワザワ感は治まりません。友も隆の傍らに立って外を眺めていました。

辺り一面真っ暗な所に差し掛かった時、隆の目に映ったものは・・・

真っ暗とは言え列車の灯りも有るので、ぼんやりと景色は見えます。その時不思議な光景を目の当たりにします。それは広い田んぼの真ん中でバイクが円を描きながら回っているのです。クルクルと何度も何度も。

隆は友達に「あのバイクおかしいと思わへんか?」と尋ねました。友も過ぎてゆこうとしているその光景を見ていました。隆の問いかけに「何がおかしいん?」と逆に問いかけてきました。気付いてないんやなと隆は思ったそうです。この友は怖がりなので説明するかどうか迷ったものの、説明することにしたそうです。「さっきバイクが円を描きながら何周も回ってたやろ?ちゃんと見たか?」

「見たで。回っとった。それがどないしたんや?」隆はちょっと可笑しくなった。まだ気付かないんや・・・「あのな、あれどこやったか分かってるか?暗闇の真ん中で、あぜ道も無い田んぼやで。田んぼ。畑なら分かるけど、田んぼやで。しかもあれだけスピンさせてるのに水しぶきも泥も跳ねてなくて、あのバイクの居たところだけ変に明るかったと思わへんか?男の人が無表情でバイクに乗ってたやろ。何でそこまで見えるのん?」隆の話を聞いていた友の顔から血の気が引いていく。

「あれは何やったんや?」と友が尋ねた。この友は隆の不思議な能力を何度か目にしたことが有ったので即座に聞き返したのだった。「僕にも何か分からへん。バイク事故で亡くなった人の霊かもしれんし、昔母親が経験したというキツネやタヌキの仕業かもしれんし・・・兎に角二人が見たものはこの世のものでは無いと思う。

怖がると思ったから言わなかったけど、列車に乗ってからずっとザワザワ感がしてたから。今は治まったからさっきのバイクの事やったと思うわ。」この友とは別の話があります。


(三)

隆の親友M君。彼との別のエピソードをお話しましょう。

隆の色々な体験話を聞いていたM君は、隆の不思議な力に興味を持っていた。

このM君、大の鉄道ファンで列車の写真撮影からカメラにも詳しかった。例の二人旅の後M君は隆と組めば心霊写真が撮れるのではないかと考えた。M君は心霊写真には否定的な考えを持っていたものの興味はあった。

隆に心霊写真の話を持ち掛けてみると、隆の応えは「上手く映るかどうか分からへんよ。でもやってもええよ。日本では四(し)に纏わることでそういった事が起きやすいって何かで読んだことあるわ。」

こんな話はすぐにまとまるもので、四月四日の午後四時四十四分に近くの火葬場に写真を撮りに行くことになった。

四月四日の午後四時三十分頃に火葬場に着いた二人。偶然にも火葬が行われ、骨あげがおこなわれていた。予定の時間までまだ一〇分程余裕があった。隆はM君よりカメラを預かり気になる場所を撮影し始める。予定の午後四時四十四分になった時、骨あげが終わり、遺骨を先頭にした葬列が隆の目前を横切って行く。何気なくシャッターを切る隆。

M君が「どうや?何か感じたか。」と隆に問いかける。「気になる場所は写真撮ったけど、あんまりピンとこなかったわ。」と隆。

当時は今のようにデジタルカメラ等なく、フィルムを現像に出さなければならなかった。二人の小遣いで賄っていたので白黒フィルムを使っていた。

数日後出来てきた写真をのぞき込む二人。隆がきになった場所で撮ったという写真を見た。そこには樹木の陰に人の顔らしきものが写っていたが、M君はこれは光の加減やろと注目していなかった。隆の目には違って映っているのだが、敢えて反論も意見もせずに次の写真に目を向けた。

次の写真は墓石が写っていた。そこには何も変わったものは写っていなかった。三枚目の写真にはM君も驚いていた。同じく墓石が写っているのだが人の顔が写っていた。M君は人の顔の様には見えるけどちょっとボケてるからなあと認めたくない様子。隆は次の写真に目を向けた。

 丁度あの時刻に骨あげが行われ、葬列が隆の目の前を横切って行った時に撮った六枚連続の写真だった。六枚の写真を並べて見てみると、隆はアッと思ったが何も言わずにM君がそれを見るのを待った。M君が顔らしきものが写っている写真から、葬列の写真に目を向けた。六枚の写真をゆっくり見ている。

そして呟いた。「三枚目と四枚目の写真おかしいな。人の形が写ってる。その前後の写真には写ってないから、レンズの汚れとは違うみたいやし、はっきり人の形してる。後ろに写っている人にかぶさっているけど、後ろの人達もちゃんと見えてる。ほぼ透明の人の形が同じ構図で六枚連続して撮っているのに、二枚だけに写っているのはおかしいな。隆はどう思う?」隆は「霊体やと思うな。多分火葬された人やろ。最初の木の陰に写っているのも顔やと思うで。三枚目の墓石のは疑いようのない顔やな。お前もあんなとこに人いなかったのわかってるやろ。」と。

M君は複雑な笑顔を浮かべていた。

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