第4話

摩訶不思議 四 

一二三 一


 本題から少し逸れるが、ここで隆の母親が経験した不思議な話にお付き合い下さい。


(一)

 隆の母親は幼少のころ近畿地方のある県の山間部に位置する田舎で暮らしていました。

ある日のこと、親類の法事に祖父に連れられて出掛けたそうです。

その帰り道でのこと。当時の田舎は現代とは大きく違い、あたり一面を田んぼと山に囲まれ、道も舗装などされていない土のでこぼこ道で街灯などほとんど無く、月明かりと時たま現れる民家の灯りと自ら用意して下げている提灯だけが頼りであったそうです。

そんな時代の山奥の田舎のことなので、昔話にしか出てこないような言伝えの類があり、隆の母親もそんな話をよくきかされていたそうです。そんなことをまさか自分が体験するとは夢にも思っていなかったと隆が中学生のころに話してくれました。

 その法事の帰り道でのこと、祖父と二人で提灯の灯りを頼りに真っ暗な中を家路を急いでいると、遠くに灯りが二つ見えます。

その灯りが少しずつ近付いて来ます。それを見た祖父は母親の手をしっかり握りしめてこう言いました。

「ミキちゃん、何があっても爺ちゃんの手を離したらあかんよ。絶対にな・」と。

田舎のあぜ道は狭くて二人連れ同士がすれ違うことは難しかったそうです。

先方の灯りがゆらゆらと近付いて来ます。

先方も提灯を下げていて、ぼんやりした灯りの中に男女の顔が浮かんできました。

祖父の繋いでいる手に力が入りました。

母はその時の相手の男女二人連れの顔をはっきりと覚えていると言い、その特徴は二人とも着物を着ていて目が吊り上がっており、やけに色が白く口が赤かったそうです。

いよいよ先方との距離が縮まったとき、祖父が「ミキちゃん、しっかり手を握って目をつぶりなさい・」と言いました。

母は訳も分からないまま言われたとおりに目をつぶり、祖父の手をしっかりと握りしめました。先方とすれ違う直前に祖父が「これでも食べておけ。」と言い放ち何かを投げたようです。その時母の傍を先方が通り過ぎていきました。少しして祖父の「もう大丈夫。目を開けてもええよ。」の言葉に母は目を開け今来た道を振り返りました。田んぼの中の一本道で脇道も有りません。見渡す限り真っ暗な田んぼが広がっています。

 不思議なことにすれ違った二人連れの姿がどこにも見当たりません。

母は祖父に「さっきの人たちは?」と尋ねました。祖父は「ミキちゃん、何か変なこと無かったか?と」聞き返してきました。

母は見たままの二人の特徴を話しました。

「それから」祖父が言いました。

「何かサワサワと毛みたいなんが触れたみたいやったよ」と母が言うと、祖父が「あれはなキツネや。時々人に化けて悪さをしよる。法事でもらった弁当を投げてやったら掴んで走って行った」と言います。

母はこんな話なんか信じられへんと思うけどあの夜の二人の顔と手足にサワサワと触れていった毛のような感触は今でもはっきりと覚えていると話してくれました。

 古来より、キツネやタヌキが人をばかすとか、人に化けると言った話は伝承として語られています。

その中でも、大阪のミナミにあった「松竹座の奈落の狸」の話は有名です。興味のある方は読んでみてください。

難波神社の神職の方もこの話はお詳しいので近くの方は尋ねてみてください。

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