捕食者

捕食者

高層マンションの最上階、ある一室。

N氏は冷蔵庫を開け、

ステーキを取り出した。

そばには高級ワイン。

いわゆる成功者というやつ。

「ここまで来るのに大分苦労した。

これからは落ち着いて

夕食も食べれるというものだ。」

N氏は満足げにフォークを手にした。

その時、ベランダに面した窓を叩く音が聞こえる。

「おかしいな、ここは最上階、

登って来れるはずはないのだが。」

N氏が窓を開けると、

そこには牙が突き出し、マントを被った

タキシード姿の男が立っていた。

いわゆる吸血鬼というやつ。

男は言う。

「はじめまして。

いきなり悪いですが、

あなたには、

私の晩御飯に

なってもらいます。」

N氏慌てふためき、

真っ青になって、口を開く。

「いや待ってくれ、苦労に苦労を重ねて

ようやく手に入れたこの生活。

まだ始まったばかりなのに、

なんて不条理、

そうは思いませんか、助けて下さい。」

男は返す。

「あなたたちは、

生態系の頂点に立っていると

思い込んでいるから、

そういうことになるのです。

サバンナを見なさい。

理屈なんてものは存在しないでしょう。

死ぬ瞬間は、理不尽に唐突に訪れるのが

本来の姿なのですよ。

このようにね。」

男が口を開き、

首筋に牙を突き立てようとした瞬間、

部屋中に銃声が3発響き、

やがて、

冷蔵庫の扉の閉まる音が聞こえる。

N氏は、明日の分のステーキを、

手に入れたのだ。

まったく死の瞬間は、

いつ訪れるかわかったものじゃない。