第2話_まさかの強制退去

100万が手に入った!


思わぬ臨時収入にうれしくなる。

この金で、滞納してる前期分の学費を振り込もう!


そう思いながら軽い足取りで自分のアパートに戻る。


ところが、俺の目には悪夢のような光景が飛び込んできた。


「えっ!?なにこれ!なにしてんの!?お前ら泥棒!?」

俺のアパートの部屋のドアは開けられていて、荷物がつぎつぎと運び出されていた。


運送業者の制服を着た男たちが、黙々と俺の私物を運び出している。

「ちょっと待てよ!それ、俺のパソコン。そのテレビも......」


スーツ姿の男が俺の前に立ちはだかった。

「樫谷光一さんですね。

なんども家賃の催促をしていたはずです。」

「そんな。だって、全部俺の私物ですよ?」


「ほら。裁判所からの命令も来ています。

今日が強制退去の日だと、前々から知らせていましたよね?」

男が俺の目の前に、紙をぶら下げる。


「郵便ポストの中なんて、まったく見てなかった!」

「そんな言い訳、通用しませんよ」


「ちょっと、どこへ持ってくんだよ?」

俺は私物を運び出していく男たちに向かって叫んだ。


一人暮らしを始めるときに購入した家電。

高校のときに親がプレゼントしてくれたゲーム機。

アルバイトの金を貯めて買った高いイヤホン。

それに学校の参考書まで。


「教科書は置いてってくれよ......困るんだ」

「書籍類も高く売れますからね」

スーツの男は冷たい声で言い放った。

「そんな......そ、そうだ!金が手に入ったんだ。今すぐ家賃を払う」


俺は男に、100万円をみせた。

「もう無理です。裁判所の命令が出ている。いまさら遅い」

男は冷酷に笑った。


男はニヤニヤと笑いながら俺を見ていた。

自分の仕事を楽しんでいる。

そういった雰囲気がにじみ出ていた。

今まで何人も、荷物を持っていかれて抵抗する人間の相手をしてきたんだろう。


たぶんこいつ、人が困るのを見るのが楽しいんだな。


こんなやつ喜ばせてたまるか。

急に俺は、悔しくなってきた。


......っていうか、もう、こうなったら私物なんかあきらめるしかない。

仕方ないじゃんか。


「ハハハハ!いいよ!そんなゴミくれてやる!全部持ってけば良い」

大きな声で笑ってやると、男はびっくりした顔をした。


俺は、自分の部屋に上がり込んで、まだ残っている下着や衣類を無言でカバンに詰め込んだ。


男は、衣類をカバンに詰め込む俺の様子をじっと見ている。

「まさか、俺の下着も売るから持っていくなって言うのかよ?

あ~ま~確かに、おっさんのと違って、俺の下着なら欲しがる女もいるだろうけどな」


「......衣類なら、持って行ってもいいですよ」


「あのー。これはどうしますか?」

部屋の奥にいる運送業者が男を呼ぶ。

男は部屋の奥の方へと行った。


(ラッキー!今だ!)

俺は急いで、本棚の教科書をカバンに詰め込んだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る