どうでもいい関係でぐちゃぐちゃしてる

ゴルゴンゾーラ

彼女との出会いと彼女が消えてしまうまで

第1話_はじまる

「なんだよこれ!俺、拉致られんの?」

誰かにうしろから羽交い締めにされ、目隠しをされた。


「うわっ。なになに。どこ連れていかれるわけ」


ことのはじまりは、メールがとつぜん来たことだった。


あまりチェックもしてない、大学のWebメール。

たまたま見たら、受信ボックスに変なメールが来ていたのだ。


「アルバイトを募集しています。報酬は100万円。

興味があれば、10月2日の15時にA校舎の地下1階まで」


送り主のメアドは学内メールのアドレスじゃなかった。

誰からのメールなのか見当もつかない。


俺は少し前から金欠だった。

それもやばいくらいに。


「えーっ!何だろこのメール。あっやし~」

怪しすぎた。


どうせ誰かのイタズラだろうけど。


「人の金欠状態につけこみやがって。こんなイタズラするなんてなぁ~」

イタズラしたヤツの顔を見てみたい。

そんな気持ちもあった。



A校舎、地下一階につくと、とつぜんうしろから羽交い締めにされ目隠しされた。

A校舎は地下駐車場と繋がっている。


そのまま歩かされて車に乗せられた。


車のスライドドアだろうか。

閉まる音がする。

「まじかよ。こういうの犯罪になるんじゃない?」

俺の問いかけには誰も答えてくれなかった。


車はしばらく走ったあと、どこかに到着した。


車から降ろされ目隠しをされたまま歩かされる。

脇に誰かががいて、俺の腕を支えている。


歩かされているのは、ビルの中だと思うんだけど、周囲の音は一切しない。


「椅子がある。すわれ」

とつぜん、耳元で男の声がして肩を真下に押される。


恐る恐るしゃがむと、尻に椅子の座面が当たる感覚があった。

俺は椅子に腰掛けた。


ふいに目隠しを外される。

薄暗い室内。

コンクリートの壁に床。


ここはどこかの倉庫?


正面には、般若のお面をつけた男がいた。

「樫谷光一」

ボイスチェンジャーか。

甲高い声が般若から聞こえた。


「悪ふざけが過ぎるって?お前誰だよ」

俺は、正面の般若に向かって話しかけた。



「ある女と付き合うんだ」

「は?なんだそれ」


「お前は一年以内にある女と付き合い、深い仲になる。これが仕事だ。

そしてこれが報酬、100万円。この金は今すぐに渡せる」


男は足元にある紙袋の中身を俺に見せた。

札束が入っているのが見える。

「......」


「女はお前と同じ学校に通う一年だ。

詳細は袋の中にある」


そっか、これはドッキリだ。


金につられて変なアルバイトに申し込んだ、新入生を驚かせてドッキリさせる儀式。

いかにもありそう。


どこかにカメラが隠されていて、動画が流される。

俺はおバカな新入生として一躍有名になるのかもしれない。


そんな考えが頭に浮かんだ。



「もし一年以内に女とお前が交際し深い仲にならなければ、この金は返してもらう。

たとえそのときに金が無くなっていても、お前の身体で返してもらう」


「ちょっと待てって。理解が追いつかないんだけど」

俺は見た目が良いイケメンだけど、頭は悪い。

俺が大学の入試に受かったのは、今世紀最大の奇跡だと高校の担任に言われた。


「これが、マジだとして。

お前はどうして、大金をかけてわざわざ、そんなことをするんだよ」

「それは話せない。仕事を受けるのか?受けないのか」


「ふーん。仕事って。女と......なんだっけ」


般若の男はため息を付いた。

「何度も説明させるな。女と付き合って寝ろ。それだけだ」

「えっ。それで今すぐ100万、もらえんの?」


「そうだ。一年以内に女と深い仲になれ」

「なんで、俺に頼むんだよ?」


「それも言えない」

「女と俺が寝たかどうかは、お前にどう分かるんだよ」

「お前と女が接触するとき、我々は常に監視している」


「あはは。悪趣味だね」

「受けるのか。受けないのか」


俺は女にモテるほうだ。

女優とかモデルを落とせって言われてるわけじゃない。

同じ大学に通う、フツウの女。


そんなの、すぐに成功しそうだと思った。


そのとき、俺はどうしても金が必要だった。

百万あればかなり助かる!


「......やってみよっかなぁ」


また目隠しをされた。


金の入った紙袋を持たされて、目隠しをしたまましばらく歩かされた。

目隠し越しに眩しい日差しを感じて、外に出たことを知る。


「20数えろ。数え終わるまでは目隠しを取るなよ」

そんな声が聞こえた。


念のため、40数えたあと、目隠しを取る。

そして手に持たされた紙袋に視線をやる。

よくみると学校説明会のときに俺ももらった覚えがある大学の名前入りの紙袋だった。


紙袋の中に入っている札束を手に取り、パラパラと指でめくる。

すべてホンモノの金。


「へぇ。どうやら、新入生向けのドッキリじゃないみたいだな」

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