05 フユリとフラン
――祭りは無事に終わった。
花火は全て打ち尽くし、あとは春の訪れを待つばかり。
しかし今年の冬送りは少しだけ、例年と違う。
古竜の聖火により雪は溶け、ほんのりとあたたかい冬日だ。
心配していたフランの先祖返りは、魔王を屠るべく現れた伝説の古竜と……少しだけ誇張されてはいるけど、みんなさほど気にしていないようだった。
むしろ崇められているというか、逆に騒ぎになっていてまた違う心配の種が芽吹きそう。
……だけど、今は。
今だけは、そういういろんなことを一旦忘れて、フランのことを想うことにする。
宿に戻った私達は疲れがドッと溢れ、ベッドになだれ込んだ。
ふかふかのベッドでちょっと一息。
……話の続きをしようと思う。
「――ぁぁ……やっ、と……かいほうされた、な……。しかしあの火――すご、かったな……喉、焼けちゃった」
「そろそろ魔力も戻ってきたし、回復しちゃうね」
超高熱の聖火はドラゴンの喉をも焼いてしまう威力だった。
私は労わるようにフランの頭を胸に抱き、焼けた喉を回復させる。
回復行為的には特に意味はないが、ベッドに飛び込んで乱れたフランのボサボサの髪を手ぐしで整える。
「……ねぇフラン。私、やっぱりフランのことはどんな時でも考えちゃいます」
「――――ぁ、んんっ。まあ私も人のこと言えないけどさ……」
喉が戻ったフランは、そのままぽそりと呟いた。
両手を私の腰にまわし、抱き寄せてくる。
「フユリ……今日祭りに行こうって言ったのは、大切なことを言うためで……でも、フユリは異世界の人間だから……いつかは、きっと……元の世界に帰るだろうし、こんなこと言っても困るだろうけど……聞いてほしいことが――」
「え? 帰らないよ?」
「……え? 帰んないの?」
フランは私の胸に埋めたままだった顔をもぞりと上げる。
拍子抜けした子供みたいな表情だった。
「だって私、故郷にそんな強い思い入れがある訳じゃないし。それにフランを放っては置けないし」
この一年で召喚魔法のことも大体調べている。
召喚者が死んだ場合、召喚物を世界に留めておく魔力の供給源が絶たれてしまう。
それでも約一年、私が異世界に留まれていた理由。
それは単純に、
だからずっと旅をしてこれた。
「フラン、あなたが望む限り私はこの世界に居られるの。私はフランが好き。大好きです。さあフラン、あなたの言いたいことも聞かせて?」
「…………わがまま、言ってもいいか……?」
「もちろんです」
フランは一呼吸置いて、私の両肩に手を添える。
「……私も、フユリが好き……だから、ずっと一緒に……居てほしい」
「……はいっ!」
こうして私達は一生共に居ることを誓った。
あぁ、そう分かってしまうと気持ちが抑えられない。
抑えておく必要もない。
「フラン……」
「ちょちょ、フユリ! 近付きすぎだって! 今は肌が熱くなってるし……く、口なんて、絶対火傷する!」
「それでもいいの……言ったでしょ? フランが付けてくれる傷なら、どんなものでも受け入れます」
「う、嬉しいけどさぁ!」
「それに安心して? 私、聖女よ? 回復しながらすれば、火傷なんて怖くない!」
「いくら回復しても熱いものは熱いよ……やっぱりフユリは勇者だったのか」
「いいから早くそこに寝なさい! もう我慢できません。やめろといってもやめませんからねっ!」
「ちょ、ま――ッ!?」
――――熱い接吻って、文字通りアツアツなんですね。
恋焦がれるとはよく言うけど、本当に焦げてしまいそう。
満更でもなさそうなフランの唇を貪るように、私の唇を重ねる。
火傷したっていい。回復して、またキスして、回復して――そうやって、私の魔力が尽きるまで肌を重ね合った。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
……翌朝、一糸まとわぬ姿で眠っているドラゴン娘をじっと見つめる。
「……やってしまった」
魔力が尽きたらやめるつもりだったのに、フランの魔力を吸収しちゃって半永久機関が完成していた。
今は何時だろう……もうそろそろお昼になってしまう頃だ。
これは、今後はセーブしておかないと……歯止めが効かなくなる。
「ある意味、先祖返りよりも危険すぎますね……」
「……おはよ、フユリ」
「あ、おはようフラン。早く着替えちゃいましょ」
「あぁ」
――朝食を含めた昼食を食べるため、着替えた私達は外出する。
雪は昨日の戦闘でほぼ溶けているけど、冬の寒さは戻ってきていた。
冷えた空気に白い息を吐き、フランのあたたかい手をギュッと握って暖を取る。
「……っ」
「ん? フラン、どうかしましたか?」
「いや……なんでも」
そういえばフラン、起きた時から顔を真っ赤にしている気が……。
「あっ! 姉ちゃんたちだ! おーい! 昨日はすごかったな!」
男の子が走ってきた。昨日の戦いのことでこうして声をかけられるかもと思ってはいたけど、まさか一番最初に来るのがこの子とは。
「きのう……すご……っ?!」
「あ、クリフくん、おはよう。そうなの、昨日はお姉ちゃんたち頑張ったんですよ」
後から走ってきた男の子のお母さんが追いつくとぺこりと頭を下げた。
フランは多分、昨日は昨日でも二人だけの一夜を思い出している。
「街をお守りくださりありがとうございました、聖女様……それに古竜様。あら? 古竜様……なんだかぼーっとなされて……」
「あぁ平気です。ちょっと昨日、激しかったので……」
「…………ああ~! うふふ、聖女様もようやくお相手を見つけられたのですね」
さすが経験豊富な奥様……今の一言で全てを察したらしい。
「っ、いや、その……」
「まあ。これは相当やられていますね……古竜を悩殺……聖女様はドラゴンスレイヤーですね」
「ぶ、物騒な異名ですね……!?」
まあ、あながち間違ってはいないけれど……。
「姉ちゃんドラゴンスレイヤーなの!? すげー!」
「や、やめて……そんな眩しい眼差しを向けないで……お母様もからかわないでください!」
「あら、ごめんなさいわたしったら。それじゃあお幸せに~♪ ほら、行くわよクリフ」
「またなぁ~姉ちゃんたち~!」
去っていく親子に手を振って見送り、私達は互いの顔を見合せた。
「まぁ、私の心を射止めたってことは……ドラゴンスレイヤーは言い得て妙だな……」
「そ、そうね。フラン限定のドラゴンスレイヤーですけど」
「当たり前だ。他のやつに浮気したら許さないからな」
ムスッとして睨んでくるフラン。
そんなに心配しなくても、他のドラゴンを好きになったりなんてしないのに。
「それじゃあ証明するために、今夜も
「き、昨日の今日ではっちゃけすぎなんだよ! 私を殺す気か! もうちょっと節度をだな……」
「あっ、おはようのキス忘れてた」
「ちょおっ!? ここ外なんだけ――――んむぅっ!?」
私達は文字通りの熱いキスを交わし、今日という日を始める。
未だ冬は続くけど、これだけあたたかければ春が来たことにも気付かなそうだ。
――ちなみに、
聖女様、それもうドラゴンスレイヤーです。 ゆーしゃエホーマキ @kuromaki_yusaku
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