綺麗な花には棘がある

「マサムネさん、人喰い花ってなんですか?」

 襲い来る根っこの鞭の嵐をかわす。

「その名のとおりだ。奴の花びらの中心に口があるんだ。ハエトリグサみたいなもんだ。真っ赤なのはプレイヤーの血で染まったからだ」

 僕はまだウルフと上級スライムにしか出会ったことはなかった。――魔王を除けば。こういうときはマサムネさんの知識が活きる。

「それで――うわ、危ない、どうすれば――くそ、いいんですか?」

「奴がミホを食べるまでに倒さなきゃならん。しかし、この根っこの鞭をどうするかが問題だ」

 マサムネさんも盾でしのぐのが精一杯のようだ。僕たちは身動きがとれない。完全に釘付けにされている。



「『ブリザード』はどうですか?」

「それはダメだ。広範囲の魔法だ、ミホにもダメージが加わる。最悪、ゲームオーバーしかねない」

 くそ、ミホが食べられるのを黙って見るしかないのか?

「奴の弱点は炎だ! だが、『ファイヤー』でピンポイントに奴だけ攻撃するのは難しい」

 考えろ、考えろ。何か策はないのか? こんなときに限って「スリープ」が使えない! しかし、そもそも「スリープ」があったところで、眠らせられるかは怪しい。「スリープ」は格上相手に使うには弱らせる必要がある。

「『スラッシュ』!」

 襲い来る鞭をマサムネさんが断ち切る。でも、だめだ。次から次へと鞭が波状攻撃をしかけてくる。いたちごっこだ。



「しまった!」

 ついに鞭がマサムネさんも捕らえた! 僕だけで対処しなければならない。奴をどうやってピンポイントに攻撃する?

 そうだ、これだ!

「『ファイヤー』」

 僕は魔法を唱える。しかし、対象は人喰い花本体ではない。

 根っこについた炎は徐々に人喰い花本体に近づく。炎から逃れようと身をよじると、根っこに捕らわれていた二人は無事に解放された。



「アキラにしてはいい案だったじゃない!」

 助けられてもらいながら、相変わらず上から目線だ。

「あとは本体をどうにかすればいい。アキラ、ケリをつけろ!」

 僕は杖を天高く振りかざす。

「『ファイヤー』」

 人喰い花は黄色い粉を飛び散らして燃えきった。



「しかし、アキラのおかげで助かったぜ。奴に対処できなくてゲームオーバーしたテスターは多い。誇っていいぞ」

「それで、当然レベルアップしたのよね?」

「もちろん、ほら」

 ブレスレットを見せつける。残り三回。これで一安心だ。

「あれ、なんだか眠くなってきた」

 目をこするが、眠気はさめない。何かがおかしい。

「俺もだ」

「私もよ。なんだか『スリープ』をくらった気分よ」

「それだ! 人喰い花の攻撃は根っこの鞭だけじゃない。奴のまき散らす粉には。つまり――」

 マサムネさんは続きを言う前に倒れこんだ。まずい。三人とも眠るのは避けなくては。

「『サンダー』」

 僕は自身に向けて雷を落とす。

「うわあぁぁぁ」

 痛い。しかし、これなら眠らない。耐えるしかない。意識が持つ限りこれを続ければ――。



「スリープ」の使用可能回数、残り三回。

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