邂逅
アリスたちと別れてしばらく、僕たちはモンスター狩りに
草原を歩いていた時だった。前方から旅人と思しき人がやって来る。見た感じ、NPCだろう。だが、旅人にしては普通と違った。別に風貌が変わっているわけではない。なのに、なにか違和感というか不安感を覚える。この人がアリスが忠告していた旅人に違いない。
「そこのお三方、オーラからするにお強いのだろう。ここはひとつ、わしと手合わせ願えんかの」
いくら練習とはいえ、NPCから戦いを挑んでくることがあるのだろうか。マサムネさんを見ると同じく困惑の表情を浮かべている。
「申し出はありがたいが、こちらは三人だ。いくらあんたが強くても、人数差で負けるのが見える。やめておきな」
「そうじゃろう。わしはぱっと見、冴えない老人じゃ。そう言われても仕方があるまい」
次の瞬間、老人の目が赤色に光る。
「しかし、これならどうかな?」
老人が姿形を変えると、そこに立っていたのは――魔王だった。
「二人とも逃げるぞ! 『プロテクト』!」
マサムネさんが素早く反応すると防御姿勢をとる。
「え、どういうこと? 魔王?」
ミホの反応も僕と同じで混乱している。魔王はラスボスのはずだ。
「おい、二人とも急いで離脱だ。相手が悪すぎる!」
「ほほう、そなたは判断力があるのう。さて、わしから逃げ切れるかな?」
「『スリープ』!」
反射的に叫ぶ。
「アキラ、『スリープ』は格上相手には効かない。相手は魔王だ。いいから離脱だ。俺がしんがりを務める!」
「分かりました! ミホ、少し揺れるぞ」
僕は自らミホを背負うと走りだす。
「ちっ、なんて運が悪いんだ。『シールドラッシュ』!」
「ほう、仲間のために犠牲になる気か? その心意気、評価しよう」
魔王はシールドの殴打をいともたやすく避けると手を挙げる。次の瞬間、マサムネさんを流星が襲う。あれは「メテオ」に違いない。でも、魔法を唱えていない。どういうことだ? マサムネさんは盾でなんとか凌いでいるが、これ以上は無理だ。魔法なら遠くからでも援護できる。
「『ブリザード』!」
これが今の僕にできる精一杯だ。が、魔王が手を横に振ると、あっさりと吹雪は止んでしまった。
「なるほど、前衛と後衛、きっちり役割分担をしているな。今までの雑魚とは違う」
「『スラッシュ』!」
マサムネさんの剣戟を魔王は受け止めるとこう言った。
「お前たちを倒すことは可能だ。だが、将来が楽しみな者を今始末するのは惜しい」
魔王は元の老人の姿に戻っていた。
「次に会うのが楽しみだ」
そう言うと魔王は去っていった。
「ねえ、あれどういうこと?」
ミホが「ヒール」で癒しながらマサムネさんに問う。
「魔王はラスボスのはずよ。なんでこんな序盤でエンカウントするわけ?」
「ミホ、答えは簡単だ。この世界は大地が刻一刻と変化している。当然、魔王の城があっても、いずれ支えている大地が消える。現にこの世界には町がないだろ。それと同じだ。魔王もまた城を持たない。いつか大地の淵がやってくるからな」
「それにしても、見逃してもらえてよかったよ」
「アキラの言うとおりだ。理由はどうであれラッキーだった。この情報は他のプレイヤーにも共有すべきだな。姿を伝えることで、逃げるという選択肢がとれる」
僕は思った。いつかあの魔王を倒すことができるのだろうか、と。
「スリープ」の使用可能回数、残り一回。
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