いざ、パワーアップ!
ピロリーンと音が鳴る。レベルアップの音だ。ミホがパーティーに加わってから断然戦いやすくなった。ミホが後ろから的確な指示をくれるおかげだ。従うのはちょっとしゃくだけど。
「さて、レベルアップも十分したし、もうそろそろスキルポイントを振ってもいいんじゃないか?」
僕はひとまずスキルポイントを温存することにしていた。ミホのすすめだ。
「確かにこのあたりのモンスターはウルフとスライムが多いです。弱いですが群れだと少し不安ですね」
「じゃあ、『ブリザード』一択ね」
ポチっとミホがボタンを押す。
「『ブリザード』を取得しました」
ブレスレットから機械的な声が告げた。
「えぇぇー」
「まあ、そう落ち込むな。確かに自分で決めたかっただろが、ミホの選択は間違っちゃあいない。スライムなんかは凍らせれば、俺が殴れば砕け散る。他の魔法よりは有効だ」
そうかもしれないが、やはり落ち込む。せっかくスキルポイントを貯めてたのに。
「元気出せよ。アキラのおかげで戦いは楽になるだろうからな」
そんなやりとりをしていると、向こうから三人組がこっちに歩いてきた。三人とも外国人の風貌をしている。きっとパーティーを組んでいるに違いない。
「こんにちは、あなたたちもプレイヤーね」
僕はうなずく。ちょっと待った、言葉の意味が分かったぞ。この人たちはとても日本人には見えない。どういうことだ?
「アキラ、安心しろ。このゲームの仕様だ。オンラインゲームだから、意思疎通できないのは致命的だからな。母国語に自動翻訳されるんだ」
なんだ、僕が天才になったわけじゃないらしい。
「アキラ、まさか自分が天才になったとでも思った?」
ミホが見上げてくる。そのまさかだ。
「そんなわけないだろ」
「ほんとかなぁ」
「あのー」
そうだ、ミホとのやり取りに夢中で目の前の三人のことを忘れていた。三人組の装備を見たところ剣士二人に魔法使い一人といったパーティー構成だ。剣士が二人は初めて見た。
「すみません。こんにちは。あの、パーティー構成が変わってるなと思ったんですけど」
率直に聞いてみる。
「ああ、それね。よく聞かれるわ。こっちの男二人が『俺が剣士をやる』って揉めてね、結局二人とも剣士になったわけ。いい迷惑よ。自己紹介が遅くなったわね、私はアリス、見てのとおり魔法使いよ」
「僕はアキラ。こっちがマサムネさんで、このちびっこいのがミホ」
ミホがにらみつけてくる。言い方は別として、事実ではある。
「俺はアーサー、よろしくな」
剣士の背の高い一人が手を差し出し、握手を求めてくる。握手をして気づいたのは、手がマメだらけだったことだ。剣士になって間もないに違いない。
アーサーという名前で剣士。なんとなくアーサー王伝説を思い出した。
「おいおい、俺を忘れてもらっちゃ困る。俺はジョージ。アーサーより剣の腕は上だ」
剣士には似合わない太った男だった。
「なんだと、勝手に決めるな。この前の練習試合じゃ、俺が勝ったじゃないか!」
剣士二人が言い争っている。
「もう二人とも落ち着いて。見てのとおり二人はライバル意識が強すぎるの。ほっときましょ」
「なあ、あんたらもしかして、友人同士でパーティーを組んだのか?」
確かに出会ってすぐには思えない。
「そうよ。あなたたちは?」
「このゲーム内で知り合ったんだ。まあ、それなりに連携はとれているから今のところ問題はないがな」
「そっちは剣士、魔法使いにヒーラーって構成か。バランスがとれてるな」
いつの間にか喧嘩をやめたアーサーが言う。
「装備を見るにそちらさんの魔法使いは新米だな。アリスはすごいんだぜ。なにせ――」
「もう、恥ずかしいからやめてって言ってるじゃない。いい加減勉強してよ」
アリスさんは頬を赤く染める。まんざらでもなさそうだ。
「ほう、具体的にはどうすごいんだ?」
「ほら、この技構成を見れば一目瞭然だ」
アリスさんのブレスレットは僕が見たこともないような魔法名で埋め尽くされていた。「メテオ」、「エターナルペイン」に「ドレイン」。
「ヒュー、あんた相当強いな。『メテオ』なんて『ブリザード』、『サンダーボルト』、『ボルケーノ』に一定のスキルポイントをふらないと取得できないはずだ。他の技も今まで見た魔法使いの中でトップレベルだ。もしかして、テスターか?」
「そう。その知識量から考えるに、あなたもそうね」
「まあそういうこった」
「ちょっと待ちなさいよ」
ミホが急に割り込んでくる。
「その女、確かに強いと思うわ。でも、うちのアキラの方が強いわ」
アリスさんは首を傾げる。
「新米プレイヤーが私以上に強いとわ思えないのだけれど」
言葉を選んでいるが、かなり自信に満ちあふれている。
「じゃあ、これを見たらその考えがひっくり返るわよ」
ミホが僕の左腕を思いっきり掴んで彼女の前に突き出す。
「うーん、一番強い魔法で『ブリザード』ね。お嬢さん、仲間贔屓はいいけれど、ほどほどにするのよ」
「ちょっと、あなたの目は節穴なの? ここを見てよ」
ミホがより一層強く引っ張る。痛い。
「ああ、『スリープ』ね。って『スリープ』!?」
「ん? アリスがそんなに驚くのは珍しいな。普段は冷静なのに」
「アーサー、お前はまだこの世界の知識が足りないな。『スリープ』は名前のとおり相手を眠らせる魔法だ。もちろん、寝ている間にやりたい放題だ。しかも、アリスのどの技よりも取得難易度が高い。不可能と言ってもいい」
ジョージの説明にアーサーは呆然としていた。
「そいつはすげえや」
しばらく情報交換をしてから、僕らは分かれることにした。
「そうそう。その先、変な旅人がいるの。あまり関わらない方がいいと思うわ。あまりいい感じは受けなかったから」
アリスが去り際に言う。
「おう、ありがとな」
「スリープ」の使用可能回数、残り二回。
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