小さな女王様

 さっそく腕試しといきたいけれど、そんなときに限ってモンスターと出会わない。まあ、その方がいいのだけれど。



「そういえば、嬢ちゃんの名前を聞いてなかったな」

「私はミホ。そっちは?」

「僕がアキラで、こっちはマサムネさん。リーダー的な人だよ」

 僕がそう言うと、マサムネさんは照れていた。まあ、実際そうだから言葉に偽りはない。

「へえ、いい名前じゃない」

 ミホは相変わらず上から目線だ。小学校でもこんな感じなのだろうか。そうなら、きっと女王様的な立ち位置だろう。小学生時代の僕とは真逆だ。



「それにしても、だいぶ歩いたのにモンスターの一匹もでないじゃない。ねえ、アキラ。歩き疲れたからおんぶしてよ」

 小学生に呼び捨てにされたうえに、おんぶを要求された。完全に見下されている。



「分かったよ、ほら乗って」

 僕は腰を下ろす。今ミホの機嫌を損ねてはせっかくのヒーラーがパーティーに加入しないかもしれない。プライドは捨てよう。

「へえ、本当にやってくれるんだ。アキラ、使えるわね」

 我慢だ、我慢。

 マサムネさんが不安げにこちらを見てくる。



 しばらく歩いても一向にモンスターに遭遇しない。出会ったのは旅人一人だけ。モンスターの気配はない。僕は延々とミホを背負っていて辛い。スキルよりも性格を重視してもいいんじゃないか? ミホの言いなりになっているのが馬鹿らしい。



「あ、見て! あそこ、上級スライムとウルフが群れでいるじゃん。ほら、行こうよ」

 ミホが僕の頭をべしべし叩く。モンスターが出てきてくれて、こんなに嬉しいことはない。連携できるかを試せるし、何よりミホをおんぶするのもこれで終わりだ。



「俺はいつもどおりに近接戦をする。あえて技は使わない。アキラは魔法でフォローしてくれ。『スリープ』は使うな。あくまで、これは練習だ。ミホは安全なところから、俺に『ヒール』をかけてくれ」

「分かりました! ミホ、僕より後ろにいて。ヒーラーが攻撃されちゃあ問題だから」

「アキラ、何言ってるの? ここが一番安全に決まっているじゃない」

「ここって?」

「アキラの背中よ。当たり前のこと聞かないで」

 もしかして、僕はミホを背負ったまま戦うのか?



「おい、二人ともぼさっとするな。行くぞ!」

 マサムネさんはすでにモンスターの群れに向かって突撃している。考えてもしょうがない、このまま戦うしかない。

「おりゃあ!」

 マサムネさんはバッサリとウルフの群れを見事な手つきで切りさばいていく。しかし、前より群れが大きい。ここは援護しなくては。

「『サンダー』!」

 しまった、避けられた! ミホが背中にいることを忘れてた。標準がいつもより定めづらい。



 マサムネさんを見るとウルフに囲われた上に、上級スライム相手に苦戦している。あえて技を使わない、すなわち「シールドラッシュ」を封じているのだ。上級スライムを切らずに倒すには、僕が魔法でやるしかない。



「ミホ、おりてくれ。僕がマサムネさんを援護しなきゃ」

「しょうがないわねぇ」

 ミホをおろすと杖を構える。

「『ファイヤー』! 『アイス』!」

 上級スライムを狙った魔法はウルフにあたった。当たったというより。こいつら上級スライムが強いと知ったうえで、戦略的に戦っている! 切り札には手を出させない気だ。



 ウルフは減ったものの依然として上級スライムがマサムネさんを襲っている。重い体で押しつぶそうとしている。まずい。

「ミホ、『ヒール』だ! このままじゃ、もたないよ」

 僕はミホに訴える。

「ううん、まだ。まだいける」

 ミホは頑として首を縦にふらない。このままじゃあ、練習どころじゃない。仕方がない。「スリープ」しかない。ブレスレットを見る。まだ二回使える。幸い盾になるウルフは少ない。他の魔法じゃあ、一撃では仕留めきれない。やるしかない。



「『クラッシュ』」

 その言葉を合図にウルフが上級スライムへ向かって飛んでいく! ウルフが上級スライムとぶつかると、その隙にマサムネさんが体勢を整える。今ならいける。

「『サンダー』!」

 今度はスライムにヒットした。僕は連続で魔法をかけようとしたが――

「『クラッシュ』」

 上級スライムの方へ無数のウルフがぶつかり、スライムは縦方向に押し上げられる。次の瞬間、耐え切れなくなったスライムは弾ける。あっけない幕切れだった。

 先ほどの魔法まさか。振り返るとミホが片腕を上げてたたずんでいた。



「で、あれはどういうことだ? 危うく死にかけたじゃないか」

 マサムネさんが詰問する。

「簡単なことよ。『ヒール』だって正確に狙わないと効果が出ないのよ。知ってるでしょ? 今こうして治療してるじゃん」

 ミホはマサムネさんの全身を「ヒール」で癒しながら答える。

「それにしても、ミホが攻撃技も使えたなんて。聞いてないよ!」

「当たり前じゃない。切り札は最後まで隠しておくものよ」

 あっけらかんとしている。

「『クラッシュ』か。ヒーラーの中で唯一と言っていい魔法だな。さっき隠してたのはそれだったか」

 確かにミホの魔法を確認したとき、一部は見せてくれなかった。



「『クラッシュ』まで習得しているところを見ると、レベルだけではアキラより上だな」

「当たり前じゃん」

「で、どうする。お試し期間は終わったわけだが」

「パーティーに入るわ」

「ちょっと待った。こっちには拒否権があるはずだ。マサムネさん、ミホと一緒じゃあ、共倒れですよ」

「あら、そんなことはないわ。マサムネには『力』と『知識』がある。そして、アキラは『スリープ』を使える。私には『判断力』がある。このパーティーのブレインとして十分じゃない?」

 判断力?



「確かに、切り札を隠しておくのはミホの年齢でできることじゃないな。まあ、味方には教えておいて欲しかったが。アキラ、どうする?」

 マサムネさんは迎え入れてもいい、という表情をしている。

「まあ、いいんじゃないんでしょうか」

「やったわ!」

「ただし、もうおんぶはしないのが条件だ」

「アキラのけち!」



「スリープ」の使用可能回数、残り二回。

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