生意気な少女

「とんでもないくそ野郎だった。助けた俺たちが馬鹿だった。無駄にスキルを使っちまった」

 マサムネさんはまだ怒っているようだ。彼が人を罵るなんて初めて見た。まあ、僕自身も腹がたったのは同じなんだけど。



「ところで、さっき旅人が言ってたヒーラー、一向に出会わないな。さすがに遠くに行っちまったか……」

 そう考えるのが妥当だろう。結局、無駄骨だったわけだ。



「あの、あそこに子供がいませんか?」

 僕は斜め右の木に寄りかかっている少女を見つけた。

「あれはNPCですかね?」

「分からん。情報を聞き出せるかもしれん。ひとまず声をかけよう」



「なあ、嬢ちゃん。こんなところで一人で何してるんだ? 一人じゃ危ないのはわかるだろ?」

 マサムネさんは相手の年にあわせてしゃべる。さすがだ。大人の対応だ。

「嬢ちゃん? 失礼なおじさんね。私はこれでもレディーなのよ!」

 とても大人には見えない。せいぜい小学生高学年の姿恰好だ。ポニーテールで髪を束ねている。



「あの、もしかして君も『チェンジング・アース』をプレイしようとしたの?」

「悪いかしら」

 ぷいっと横を向く。こんな少女がこの世界でやっていけるとは思えない。マサムネさんも同意見のようだ。こちらを見て合図する。



「なあ、悪いことは言わない。早くどこかのパーティーに入った方がいい」

「その必要はないもん。他のプレイヤーが私を守ってくれるから」

 うん? どういうことだ? 仲間でもない人を助けるプレイヤーがいるのだろうか? このいたいけな少女を放っておけなくて助けに入るのだろうか?

「ねえ、あなた達どれくらいの実力の持ち主なの? それ次第ではパーティーに入ってあげるわ」

 さっきのレンジャーといい、なんでこうも上から目線の人が多いんだ。マサムネさんとが優しすぎて、みんな人がいいものだと思い込んでいた。



「あそこにウルフの群れがいるわ。あいつらで実力を見せてよ」

 ウルフの群れ。あの雨中の戦闘を思い出す。あれは辛かった。でも、スキルポイントを振った僕の魔法なら、あのときより楽に勝てるだろう。

「いいだろう、実力を見せてやる。だが、先に嬢ちゃんの職業を知っておきたいな」

「いいわよ。私はねぇ、『ヒーラー』なの」

 どうだと言わんばかりに胸を張っている。この少女がヒーラー!? 確かにヒーラーを探していたが、こんな少女ではこころもとない。

「さっさとやっつけてよ。ヒーラーは需要が高いのよ。仲間に入れたくないの?」

「分かったよ。君の言うとおりだ。僕たちの実力を見せてあげる」



 ウルフの群れを一掃するのは楽勝だった。僕も実戦で経験をつんでいる。徐々に強くなっているのを実感する。

「で、嬢ちゃんは俺たちのことをどう評価する?」

「うーん、いまいちね。助けてくれて、ありがとう」

 それだけ言うと少女は去ろうとする。ヒーラーは需要が高いと同時に攻撃技が皆無だ。もしかして自分の需要を知っていて、同じ手法で身を守っていたのか? かなり頭がいい。って感心している場合じゃなかった!



「嬢ちゃん、ちょっと待ちな。アキラは『スリープ』を使える魔法使いなんだが」

「ねえ、それってホント!?」

 さっきまでの態度はどこへやら、僕たちに興味津々のようだ。瞳を輝かせてこっちを見つめている。



「なあ、嬢ちゃんのスキルを見せてくれないか? 腕が確かなら一緒にパーティーを組みたい」

 マサムネさんの考えが分かった。僕たちはヒーラーを必要としている。だが、実力も分からずに、しかも少女を仲間にするのはリスクが高すぎる。この世界では現実の見た目がそのまま反映される。足をひっぱられては困る。

「いいわよ。これ見てよ」

 少女は腕につけたブレスレットを僕たちにつきつけた。



「『ヒール』の上位の『ヒールオール』に攻撃力アップの『アタックチア』、防御力をあげる『ブロックチア』。悪くないな。特に序盤で『ヒールオール』を使える奴はそういない」

 何やら強いらしい。でも、本当に大丈夫だろうか。

「おや、まだ上になにか技がないか」

 マサムネさんがブレスレットをさらに覗き込もうとすると、あっという間に手を引っ込められた。



「あの、マサムネさん、ちょっとこっちに来てください」

「嬢ちゃん悪いな。作戦タイムだ」

 少女から距離をとってひそひそ声でしゃべる。

「あの少女、強いんですか?」

「ああ、かなりな。俺たちと組んでレベルアップすれば、さらに優秀なヒーラーに育つ。だらが、性格に難ありだな」

 やっぱり同意見だった。



「さて、どうするかな。腕がいいのは確かだし、頭も切れる。まさか、あの年で自分の立場を活かして他のプレイヤーにモンスターを倒させていたとはな」

「あのう、ヒーラーってどれくらいの人がいるんでしょうか? 他の職業に比べてです」

「多いとは言えないな。なにせパーティーを組むのが前提だ。友人と一緒にプレイし始めない限り、序盤でゲームオーバーだ」

「他のヒーラーに出会える確率はどのくらいですか?」

「なんとも言えん。だが、商人よりは出会えないし、あのスキル群を持ったヒーラーもそういない」

 腕と頭の良さをとるか、性格をとるか。悩ましい。



「なあ。嬢ちゃん、すぐにパーティーを組まずにひとまず一緒に戦うのはどうだ? いくら嬢ちゃんか強くても連携が取れなけりゃ、意味がないからなら」

 これが二人で出した妥協案だった。

「面白いわね。その提案乗るわ」

 こうして三人で行動することになった。



「スリープ」の使用可能回数、残り二回。

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