世の中お金が大事

 僕は商人にさよならを告げて歩いている最中に一つの疑問が頭をもたげる。

「マサムネさん、さっきの商人とのやりとりを見てて思ったんですが、お金ってどうやって手に入れるんですか?」

「まさか、案内役から何も聞いてないのか!?」

「実は、聞いてなくて……」

 こんな初歩的なことも知らない自分に腹が立つ。

「まあ、案内役にも色々いるからな。それに俺はテスターだったから、作成者側から丁寧な説明を受けたからな。方法は大きく三つだ。宝箱からの入手、敵からまれにドロップする、そしていらなくなった装備の売却だ」

 なるほど。



「でも、それだけだとお金に困りませんか? いくらなんでも入手が難しそうな気がします」

 僕の指摘は痛いところをついたらしい。マサムネさんの顔がくもる。

「本当は話したくなかったんだがな。今後のためには知っておくべきだろう。お金を手に入れる最後の手段はだ」

 奪う? プレイヤー同士は魔王を倒すのに協力しあうはずでは?



「アキラの言うとおり、お金の入手方法は少ない。故に他のプレイヤーから奪うのがもっとも効率がいいわけだ。ほんと、製作者はバランスを考えてないな。それか俺たちの蹴落としあいが見たくてこうしたのか」

 おそらく後者に違いない。そう考えると「スリープ」を取り上げられなかったのは幸運としか言いようがない。

「あれだ、敵はなにもモンスターだけじゃないってことだ。夜間は奇襲をかけやすい。プレイヤー狩りが来るならその時間帯だな」



「さて、もうそろそろ最後の一人を見つけたいところだが、どんな職業がいいと思う?」

「まあ、ヒーラーが無難でしょうね。支援役が欲しいですし。レンジャーも悪くないと思いますけど。前衛、後衛のどちらに重点を置くかによって変わりますね」

「そうなるな。俺もヒーラーに賛成だ。次点でレンジャーだな。前衛も後衛もいける。そうするとバランス型になる。剣士は二人もいらないだろう。前衛二人も悪くはないが、おそらく新米冒険者だ。俺一人で十分だろう」

 そう、マサムネさんは経験が豊富だ。彼を軸に僕ともう一人でサポートするのがベストだろう。



 しばらく歩いても誰とも遭遇しない。さっき買い物したから商人はいらない。早いところ他の冒険者に会いたいところだ。

「おお、冒険者かね」

 旅人のNPCが話しかけてくる。いつの間に来たんだ?

「なあ、あんた情報が欲しいんだが。この先を進もうと思うんだが、大地の淵はどんな状況だ?」

「うむ、あっちの方の淵は動いておらん。じゃが、それもさっきまでの話じゃ。今はどうなっておるか分からん」

 当たり前だ。この大地は日々動く。さっきまで安全だった場所もいつ消えだすか分からない。



「そういえば、通りすがりにヒーラーがおったよ」

「じいさん、それは本当か!?」

 ヒーラー。それは僕たちが今一番欲している職業だ。そうとなれば、このまま道を進むのみだ。

「じいさん、ありがとな」

「当たり前のことをしたまでじゃよ」

 フォフォフォと言いながら老人が去っていく。



「アキラ、聞いてのとおりだ。俺たちの最後のピースがこの先にいる。だが、問題はそいつがどこに移動したかだ。果たしてこのまま、まっすぐ進んでいいものか……」

「うーん、ひとまずまっすぐ進むしかないと思います。移動していないことを願うしかなさそうです」

 マサムネさんは思案顔だ。顎に手をやって考え込んでいる。素人の僕が下手に口を出すと彼の思考を邪魔してしまう。

「そうだな。この先は淵が迫っていないらしいし、安全の確保から考えてもそれがベストだろう」

 そうと決まればことは簡単だ。前進あるのみだ。



「だいぶ歩いたが、誰も見当たらないな」

 僕たちはかれこれ二時間は歩いている。ここまで来て誰ともすれ違わなかったのだ、きっと目当てのヒーラーは別の場所へ行ってしまったのだろう。

 落胆して歩いていた時だった。

「おい、アキラ。あそこで誰かがモンスターに襲われているぞ!」

 マサムネさんのことだ、見ず知らずのプレイヤーでも助けようとするのは分かりきっている。

「助けにいきましょう!」

 僕たちはモンスターの群れに突撃する。



 今回の相手はウルフではなかった。巨大なスライムだった。おそらくスライムの上位種だ。でも、マサムネさんがいるから大丈夫だ。

「アキラ、俺が技を放つから後ろにさがってろ! たかがスライムの上位種だとあなどるな。こいつは厄介な相手だ」

 僕は指示通り後方にまわる。

「いくぞ! 『シールドラッシュ』!」

 マサムネさんの盾がまばゆく輝いたかと思うと、剣を抜かずに盾でスライムを殴りつけた。スライムの顔が左右にブルンブルンと揺れ動く。彼の技を見るのは初めてだった。今までは持ち前の剣技で敵をさばいていたから。



「よし、今だ! 『サンダー』だ! 奴を消し炭にしろ!」

「分かりました! 『サンダー』!」

 だが僕の魔法が当たるより前にスライムが切り裂かれる。後ろのプレイヤーが攻撃したに違いない。どっちにしてもスライムは倒せる。スライムに斬撃が当たると――そいつは二つに増えていた。

「くそ、誰だ邪魔した奴は! スライムの上位種は斬撃に強い! 切りつけるたびに分裂するんだ」

 だから彼は盾で殴る攻撃を選んだんだ。モンスターの性質を完全に理解している。

「ふん、悪かったな」

 後ろから冒険者が飛び出してくる。恰好から考えるにレンジャーだろう。さらにスライムに切りかかる。

「こんな雑魚、オレ一人で十分さ」

 当然スライムはさらに分裂する。三体になった。



「アキラ、魔法ならこいつらを分裂させずに倒せる。なんでもいいから技を放て!」

 僕は思いついた魔法をとっさに唱える。

「『ファイヤー』!」

 次の瞬間、スライムの群れは真っ赤な炎に包まれる。すると二体は蒸発して消え去った。残りは一体だ。その一体にレンジャーが攻撃しようとしている! これでは二の舞だ。

「『スリープ』!」

 とっさにレンジャーを眠らせる。これで邪魔は入らない。

「『サンダー』!」

 魔法を受けてスライムは消え去った。よく見ると多少の金貨が落ちている。ラッキーだ。



「さて、あとはこの自分勝手な奴をどうするかだな」

 マサムネさんは呆れている。無理もない。せっかくの僕たちの作戦を邪魔したのだ。その場に居合わせていたのだから、スライムの特性は知っていたはずだ。



 しばらくするとレンジャーが目を覚ました。

「おい、オレ様の邪魔をしたのはどこのどいつだ?」

 起きて第一声がこれか。こっちが助けてあげたのに。

「お、もしかしてお前たちパーティー組んでるのか? ならオレが仲間になってやってもいいぜ。いや、仲間にしてやってもいいぜ」

 助けられておきながら上から目線だ。無性に腹が立つ。



「俺はお断りだな。自分勝手な奴はパーティーにはいらん。足をひっぱられるだけだ。こっちから願い下げだ」

 マサムネさんにしては珍しくキツイ口調だ。自分の作戦を邪魔されたのだ、無理もない。

「ほう、オレ様の強さが分からないのか? じゃあ、お前たちの身をもってオレ様の強さを証明してやるよ」

 彼の強さを見る前に、マサムネさんが素手で殴り倒していた。レンジャーはノックアウトされている。

「さあ、こんな奴ほっといて進むぞ」

 彼の口調はいつになくぶっきらぼうだった。



「スリープ」の使用可能回数、残り二回。

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