スキルポイント
いい匂いがする。何かを焼いている匂いだ。ああ、そうだ。ウルフの群れに襲われたんだっけ。そこで意識を失って――
「はっ、はっ、はあ」
目が覚めた。ここはどこだ?
「よお、目覚めたかアキラ」
体を起こすと、そこには闇夜に浮かぶマサムネさんがいた。夜なのになぜ、姿がはっきり見えるんだ? その謎は一瞬で解けた。近くに焚火があり、周りに魚が串刺しにされている。
「ほら、落ち着いたらこれでも食いな。食料はこれっきりだが、HPを回復するのには十分な量だ」
彼はすでに魚をほおばっていた。
そうだ、僕たちはサンダーをまともにくらった。全身の傷がそれを物語っている。次にいつ襲われるか分からない。早くHPを回復しなくては。
「それにしても散々だったな。まさか、『スリープ』の残数がゼロだったとは。言わなかったお前にも非があるが、腕試しに使わせた俺にも非がある。まあ、今回はいい勉強になったな。スキルの残数はちゃんと管理するってな。ウルフの群れだったからよかったが、もっと上の敵だったら、今頃お陀仏だったな」
「いえ、あれは僕のミスです。調子に乗って『スリープ』を使い過ぎました。強力すぎる魔法の力に溺れていたんです……」
それは事実だ。僕は天狗になっていた。「スリープ」があるから無敵だと。雑魚相手に乱発しすぎた。これからは雑魚相手には他の魔法で対抗しなくては。
「まあ、自分を責めすぎるな。なあに、俺は剣士だ。剣があれば技を使わなくても雑魚相手ならなんとかなる。この鍛えた体も無駄じゃなかったわけだ」
剣士と魔法使い。それぞれに得手不得手がある。せっかくパーティーを組んだんだから、互いに補い合えばいいのだ。
「ああ、そうだ。不親切なこのゲームのことだ、もしかしたらスキルポイントの話は聞いてないか?」
「スキルポイント?」
「そうさ。スキルポイントはゲーム開始時に何点か付与されている。俺はテストプレイヤーだったから、通常のプレイヤーが最初にどれだけ持っているか分からねぇ。ちょいとブレスレットを見せな」
そう言うとマサムネさんが左腕を覗き込む。
「なるほど、今はスキルポイントが八点だな。確かアキラの手持ち魔法は『サンダー』、『ファイヤー』、『アイス』に『スリープ』だったな。お、『テレポート』もあるな。スキルポイントってのはな、すでに取得している技を強化できるんだ」
「ってことは『スリープ』も強化できるんですね!」
「それは違うな」
マサムネさんが首を振る。
「『スリープ』だけは例外だ。強すぎるが故に強化は許されていない。テスターが『スリープ』を連発しすぎたんだ。それ以来調整が入って、『スリープ』にも下方修正がはいった。格上の相手に使うには弱らせる必要がある」
「じゃあ、他の技にスキルポイントを振るんですか?」
「そういうこと。例えば『アイス』にポイントを振れば上位魔法の『ブリザード』が使えるようになる。まあ、一点集中で技を極めるもよし、バランスよくふるもよし。プレイヤー個人の好みがでるな」
僕は手元のブレスレットを見る。「テレポート」、これは攻撃技ではないが便利そうだ。
「ちょっと待った! 『テレポート』はダメだ」
僕の腕を強く掴む。
「え、何でですか?」
「それはな、『テレポート』で移動できる距離には限界があるんだ」
「それでも便利じゃないですか?」
「移動できる距離は扱う人のレベルに依存するからだ。レベルが低いうちにポイントを振っても十メートル先に移動するのが限界だ。魔法使いのテスターがバランスよくスキルポイントを振って失敗したんだ。このゲームの作成者はユーザーに有利なバグは下方修正するが、ユーザーに不利な仕様は改善しない」
とんでもない作成者だ。このゲーム、バランスが偏り過ぎている。こんな作品をプレイするところだったのか。いや、現在進行形でプレイしていた。
「まあ、最初のうちはバランスよく振るのがおススメだな。敵にはそれぞれ弱点がある。弱点をつけば有利にバトルを展開できる」
なるほど、技も敵との相性で使い勝手が変わるのか。
僕は均等にスキルポイントを振り分けた。
「さて、問題は商人といつ会えるかだな。俺たちには手持ちの食材もないし、ポーションもない。しかし、こればかりは運だからなぁ」
マサムネさんが芝生に寝転ぶ。
「一つ質問いいですか?」
「おう。俺の知っていることなら、なんでも答えてやるぞ」
「僕たちって歩いて移動するためにも、食料がないと動けないんですか? 前にソロだったころ、歩き続けたのに食べもしないでいつまでも歩けたので」
迫りくる淵から逃げていたことを思い出す。
「ああ、それか。食材はあくまでHPを回復する手段だ。普通に動く分には腹は減らない。さすがに作成者もそこまで酷な仕様にはしなかったみたいだ。まあ、そこまでされちゃあゲームとして成り立たないしな」
一安心した。明日以降も商人を探して歩けば、きっとどこかで会える。僕も芝生に寝転がると、夜空に浮かぶ星々を見つめた。明日はいい日になりますように。
「スリープ」の使用可能回数、残り三回。
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