激闘

 今日の夜は交互にに眠ることにした。これで敵には奇襲されない。それに万が一商人が通った時に商品を買える。



 今は僕の番だ。マサムネさんはいびきをかいて寝ている。

 僕は手元の杖を見る。マサムネさん曰く、魔法にも質とレベルがあり、プレイヤー自身のレベルや武器が関係するらしい。彼の役に立つように、早いところ新しい杖が欲しい。そんなことを考えていた時だった。遠くで吠え声が聞こえた。聞き間違い様がない。昼間に襲ってきたウルフだ。それも複数いるらしい。



「マサムネさん、おきてください! ウルフの群れが来ます!」

 彼の反応は早かった。

「奴ら、夜が好きだからな、いつかこうなるとは思っていたが。戦闘準備だ。俺が奴らを引きつけるから、後方支援を頼む」

「分かりました! 任せてください」

「それと、ウルフの群れにはボスがいる。そいつを倒せば雑魚どもは逃げるはずだ。ボスは大きい。一目見れば分かる」

「了解です」



 僕らはフォーメーションをとる。

「これでもくらえ!」

 マサムネさんが雑魚を蹴散らす。見事な剣さばきだ。僕はその隙にボスを狙えばいい。狙いを定める。

「スリープ!」

 ん? ボスが眠らない。もう一度繰り返しても何も起こらない。何かがおかしい。僕のレベルが足りないのか? それとも武器が弱いのか? ブレスレットを見るとこう表示されていた。

「スリープ」の使用可能回数、残りゼロ。

 しまった、NPCに一回、ウルフに一回、スライムに一回、合計三回を使いきっている。それ以降、レベルアップはしていない。



「マサムネさん、『スリープ』の残数ゼロです! ボスを眠らせられません!」

「なんだと!? どういうことだ!」

「元々残数が一だったのに、さっきのスライムに使ってしまいました!」

 僕は叫ぶ。



「しょうがない、ここはあそこまで撤退だ!」

 マサムネさんの指す先はいまにも雨が降りそうなくらい、空は真っ暗だ。

「でも、あそこまでひいても、状況は変わりませんよ!」

「いいから言うことに従え! 安心しろ、策はある」

 ウルフの群れを相手にしながら、こっちを見る。ここは言う通りにした方が良さそうだ。



 僕は援護するために魔法を放ちつつ、目的地に向かって後退りする。

 次第に雨が降ってきた。顔に雨が打ちつけるし、視界が悪い。足元も泥だらけでいつ滑ってもおかしくない。



「アキラ、『サンダー』を使え! 意図は分かるな?」

 僕はすぐに察した。水を浴びたウルフたちは雷で大きくダメージを受ける。ただそれは僕たちも同じだ。こちらも無傷では済まない。



「躊躇するな! ウルフにやられるか、雷をくらってギリギリ生き残るか。選択肢は二つしかない!」

「……分かりました! いきますよ! 『サンダー!』」

 杖からではなく、頭上の雷雲からものすごい大きさの雷が落ちてくる。

 雷は僕達とウルフに当たる。次の瞬間、もの凄い痺れと痛みが襲ってきた。



「うわああぁぁぁ」

「く、くそ、思ったより効くな……」

 雷が止みウルフたちを見ると、全頭ひっくり返っている。かなり効いたらしい。しばらくすると、蒸発していった。



「おい、アキラ、無事か?」

「ええ、なんとか」

 二人とも肩で息をしている。僕は痛みのあまり、その場に倒れ込む。そのときだった。

 ブレスレットから音がする。レベルアップの音だ。これで「スリープ」は三回使えるようになった。一安心だ。

 安心したのと同時に、僕のまぶたが自然とおりてくる。

 その後の記憶は僕にはない。



「スリープ」の使用可能回数、残り三回。

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