無敵
気分よく歩いていると、向こうから人が歩いて来る。近づくとそれが商人であることが分かった。かなり高齢なおじいさんだ。
「いらっしゃい、冒険の方ですかな? 私は見ての通り商人でございます。何かご入り用なものはございますかな?」
商人はそう言いうと地面に敷物を引き商品を並べらだす。
商品は新品の剣、新品の盾、それに新品の杖。僕は手元の杖を見る。かなり使い込まれた様子でかなりボロボロだ。いつ壊れてもおかしくない。
「じゃあ、この杖ください」
商人はいつまで経っても杖をよこさない。頭にきた。
「その杖をください!」
「お主、ただでもらえる訳がなかろう。さあ、代金をもらおうか」
そうだ、当たり前のことを忘れていた。
「悪かったよ。じゃあ、代金を――」
僕は懐に手をやると、とんでもない事実に気がついた。あの女性、僕に通貨を渡さずに消えやがった! くそ!
「もしや、金がないとは言わんだろうな?」
商人がにらみつけてくる。
「そのまさか、です」
僕は消え入りそうな声で事実を告げる。
「ふん、とんでもない奴だ。時間を無駄に使わせておって。まさか新米冒険者だとはな。せいぜい死なないようにするがいい」
商人は背を向けると去っていく。僕がため息をついていると老人がこちらを振り返って言った。
「新米のお主に一つ忠告しておく。この世界で『寝る』ことは死を意味する。気をつけるのじゃな」
寝ることが死を意味する? よく分からないが商人はアドバイスをくれたようだ。悪い人ではなかったらしい。
商人と別れてしばらく道なりに進むとまたしてもスライムと出くわした。だが、僕には最強の魔法「スリープ」がある。あっという間に倒せる。
僕はさっきと同じ手順でスライムを倒す。
ブレスレットからピロリーンと音が鳴り、レベルアップを告げる。それと同時に各種魔法の使用可能回数が回復する。もちろん「スリープ」もだ。
なんだ、楽勝じゃないか。「スリープ」があれば僕は無敵だ。
魔王討伐なんてあっという間に終わるだろう。そうすれば、現実世界に戻ることができる。案外、この世界とおさらばするのも早いかもしれない。
「スリープ」の使用可能回数、残り三回。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。