第4話


 13時から愛負だってのに……なんで俺は今、ここにいるんだ?


俺はそんなことを考えながら、襲いかかってくる男たちを薙ぎ倒していた。


「おい、夏樹! 油断すんな!」


 勇士郎の叫び声が、俺の耳に飛び込んできた。


 そうだったな……今は喧嘩の最中だった……危ない危ない。


 一瞬でも油断したら負けるところだったぜ……。


 俺は一息つきつつ、再び敵と向き合う。愛負まで後1時間もないって言うのに、こんなところをみさきに見られたら最悪だ。


「くらえコラァ!」


 俺がいくらそう思っても、敵は容赦なく襲ってきた。まったくもって厄介な奴だ。


「夏樹、悪い……こんなことに付き合わさせてしまって」


 突然、勇士郎が申し訳なさそうな表情で俺に謝ってきた。


「なんで謝るんだよ? 俺が勝手にやってるんだ。それに……」


 俺は襲いかかってきた男を足払いし、顔面に思い切り殴りつけた。


 男は地面に倒れ込み、動かなくなる。これで少しは時間稼ぎができるだろう。


 俺が倒した男の拳が俺の頰をかすり、痛みが全身に走る。だが、そんなことはどうでもよかった。なぜなら……俺の後ろには勇士郎がいたからだ……彼を守れるならそれでいいと思ったんだ。


「相手は今話題の愛負反対派の奴らだ……愛負を申し込まず、異性を口説こうとする輩だ。生かしては置けない」


「分かってるよ。お前は愛負実行委員だからな。愛負を乱す輩を放っておくわけにはいかないもんな」


 俺の言葉に勇士郎はニッと笑う。その笑顔はいつもより頼もしく見えた。


「そうさ。夏樹の言う通りだ」


 彼の声に、俺はなんだか勇気付けられた気がした。


 そして俺は再び敵に向かって走り出した。


「夏樹、無茶するなよ! 危なくなったらすぐに逃げろ!」


 勇士郎の声が俺の背中を押してくれた。俺は彼の言葉に応えようと必死に戦った。だが、多勢に無勢だ……。俺はあっという間に追い詰められてしまった……。


「へへッ……お前ら愛負推進派はボコボコにしてやるよ」


 男がそう呟きながらナイフを取り出したのを見て、俺の背筋が凍った。あの刃先には毒が塗ってあるかもしれないからな。


 いくら鍛えている俺だって、刺されれば一瞬で毒が回って死ぬかもしれない。


「夏樹、どけ! 俺がなんとかする」


 勇士郎の声が響き渡る。その瞬間、俺は反射的にその場から飛び退いた。次の瞬間、勇士郎が俺の前に躍り出る。そして男が振り上げたナイフを片手で掴んだかと思うと、目にも留まらぬ速さで男を殴り倒した。その姿はまるで映画のワンシーンのようで……正直、めちゃくちゃカッコよかったぜ……!


「夏樹、大丈夫か?」


 勇士郎は心配そうに俺に声をかけてくれた。俺は彼の優しさに感動しつつ、彼に笑顔を向けた。


「ああ、平気だ」


 俺の返答に勇士郎はホッと胸をなでおろしていた。


 そして彼はいつものように可愛らしい笑みを浮かべた。


「よし……じゃあ帰ろうぜ」


 俺たちは愛負反対派を蹴散らして帰路についた。

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