第15話
「なかなか当たらぬものじゃのう」
広場の一角に設けられた出店の一つでアナスタシアとミンテアは射撃を楽しんでいた。二人が持ったフリント式の銃を模した玩具の銃からコルク栓のような木製の弾丸がポンポンと景品に向かって放たれている。
「そうですね……あー惜しい!」
ミンテアの弾が犬のぬいぐるみに当たったが少し揺れただけだ。
「銃の訓練も受けたのじゃが……と。さらに右に5ミリか」
アナスタシアは弾丸の飛んでいく先を見ながらミンテアに問いかけた。
「ところでミンテアよ、お主はこの先どうするのじゃ?」
「え?」
アナスタシアがコルク弾を込めながら続けた。指の関節で込める長さも考えている。
「レインはこれから先やる事があると言うておった。おそらくバックも一緒に王都を去るじゃろう。ハーシャはプラントで働きながら魔法の研究をするそうじゃ」
「え? レインとバックが?」
会話をポンポンという銃声が繋ぐ。
「お主は僧侶として優秀じゃが、この先もずっと修道院で暮らすのかの?」
「いえ、私はそのう」
「何じゃ」
景品の方を見ながら小さな声でポツリと言った。
「いい男を捕まえて修道院を去ろうかと」
アナスタシアは弾を込めながら笑った。
「カッカッカ! そうかそうか!」
ミンテアは言うんじゃなかったとばかりに赤面した。
「あ! 今バカにしましたね!」
アナスタシアは笑ってもう一発撃った。
「まあ良いではないか! 魔王も倒して世界が平和になったのじゃ。自分の幸福とは何かを見直すいい機会じゃ。他人ばかり救って自分が疎かになる者も多いからの。どんな選択でも恥じる事は無いぞ」
「またそんな事言って! もー! この銃も全然真っ直ぐ飛ばないしもー!」
スキンヘッドの店長が少し気まずそうに頭を掻いている。
「あー、うちは軍人さんの客が多いからわざと銃身とサイトに細工がしてあって、ちょっとずれるんです、申し訳ございません」
「あっいえそんなつもりじゃ、すみません」
謝りながらミンテアが撃ち切った銃を返すと、なんとなく気まずくなり店長を含む三人は沈黙した。
「あの……アナスタシア様の幸福って何ですか?」
おずおずとミンテアが尋ねた。
「ワシか? ワシはやりたいようにやっておる。それで民も喜ぶ。ワシの幸福とは、この国に貢献しておるという自信を持って生きる事じゃ」
アナスタシアは何発か撃った後、悪戯っぽい顔で笑った。
「まあワシも王家の者として、子は産まねばならぬと思っておるからのう。どっちが先にいい男と結婚するか競争じゃの」
「あ、なんかそっちの方は打算的ですね」
アナスタシアがもう一発撃った。弾は犬のぬいぐるみの頭をペシッと叩き、ぬいぐるみは後ろに少し滑った。
「あ! 惜しい!」
「ふむ、数発打って誤差を見ておった。コルクの込める長さでも弾道は変わるようじゃの。今ので完璧に把握した」
アナスタシアはコルク弾を込めて片目を瞑り、最後の一発を撃とうと構えた。
「これで頂きじゃ」
一同が固唾を飲んで見守った。アナスタシアが撃った最後の弾は先程の犬のぬいぐるみの眉間にピシッと当たり、ぬいぐるみがさらに後ろに滑ると、最後の数ミリでこらえていたぬいぐるみがバランスを崩して棚から落ちた。
「おお〜!」
一同は声を挙げた。
「カッカッカ! こんなもんじゃ!」
アナスタシアはゲットした犬のぬいぐるみをミンテアに渡した。
「とりあえず彼氏の代わりじゃ」
「くっ!」
二人は笑うとアナスタシアは広場の時計で時間を確認した。
「さて、料理対決の準備に行かねばならぬ。またの」
「楽しみにしてますね」
「うむ。きっと良いイベントになるじゃろう」
アナスタシアは兵士を率いて颯爽と歩いて行った。
「いや、料理対決じゃなくて……この国がとうなって行くのかなんだけど……まあいっか」
ミンテアが抱えた白い犬のぬいぐるみが真っ直ぐ前を見据えていた。
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