第13話
アナスタシア達の馬車が王都に現れた時、今までで最も大きな歓声が挙がった。
「アナスタシア様だ!」
「女王陛下万歳!」
中央通りは往来が激しいため、他の道と比べてもかなり広めに作られており、馬車を四台並べても平気な程道幅は広い。その石造りの道をアナスタシア達の二台の馬車を中心にして精鋭の兵士達、騎兵隊、魔法使い部隊、そしてトランペットなどの楽器隊が整列し、一つの大きな部隊となって行進して行く。中心に位置するアナスタシアは左手に杖を持ちながら堂々と立ち、民衆の声に応えて手を挙げている。
「やっぱりさすがだなアナスタシア様は。俺達より全然人気あるぜ」
「見て、あそこに他の国からの要人が座ってる」
沿道に立つ群衆の間に一際大きな席が設けられ、近隣諸国の王や大臣達が座っている。二十ヶ国程の要人達だ。アナスタシアの馬車が近付くと皆立ち上がり、アナスタシアに頭を垂れた。アナスタシアは笑顔で王達に応えた。
「す、すごい。他の国の偉い人達が皆一斉に」
「アナスタシア様への忠誠度をチェックする意味もあるんだろうな」
アナスタシアの馬車が通過すると王達は頭を上げ、バック達の馬車が近付くと今度は大きな拍手でバック達を迎えた。初対面ではない王達もいるが、レイン以外の三人は照れながら中途半端にお辞儀して拍手に応えた。レインはスマートに微笑みながら要人達の顔を見ている。バックはそれに気付いた。
「どうしたレイン?」
「いや、見た事無い大臣達もいるだろ? 顔を覚えておこうと思ってな。それに」
会話の内容を悟られないよう微笑みながら言った。
「心の底から楽しんでるって気分じゃない奴もいるみたいだぜ」
バックには誰の事を言っているのかは分からなかったがレインはこういう事を見抜く力に長けている。レインの直感を信じることにした。
「何かあったら教えてくれ」
「ああ」
王都の中心地、広場に馬車が着いた。要人達は警備の都合上、広場には行かずに城に移動したようだ。広場には出店や大道芸人がいて会場を賑わせている。兵士達が囲んで確保していた空間に馬車が停まり、アナスタシア達五人が降りると広場で遊んでいた子供達が気付いて叫んだ。
「あっ! アナスタシア様だ!」
「バックもいる! バックー!」
他の都民も既にお祭りを楽しんでいたが、五人に気付くと歓声を挙げたり一目見ようと集まって来た。歓声に応えながら、四人は兵士の誘導に従って壇の横に整列した。アナスタシアは壇の上に上がり、魔力が充填された白い筒状の棒を持って話し始めた。
「今日は良き日じゃ……あれ?」
アナスタシアは筒をつついて声を出した。
「あうあうあー。これ声が大きくならぬな」
技師が慌てて近付いて来て筒を受け取りパパッと調べるとあたふたして謝った。
「す、すみません! どうやら会場で使っていた間に魔力が減っていたようで!」
「ほう。ハーシャよいか?」
「はい」
ハーシャが指をピッと出すとあっという間に最大値まで充填された。
「あうあうあー」
アナスタシアのあうあうあーが会場に響き渡った。都民がクスクス笑っている。城の会議場でも長いテーブルの中心に置かれた丸い機械からアナスタシアの声が聞こえていて、座っていた王達が静かに耳を傾けていた。
「今日は良き日じゃ。長い間魔物に苦しめられて来た我々人類が今日、ここに勝利宣言をする。ワシは今ここに立てていることを心より嬉しく思う。人類はこれより新しい世界へ進む。次の段階、人間達が力を合わせて世界平和を実現し、維持していく世界じゃ。これからも幾多の試練がワシらを待っているじゃろう。衝突もあるかもしれぬ。しかし人類は負けぬ。必ずや困難を乗り越えて行くじゃろう。人類に不可能は無い。それを見せてくれたのがここにいる四人、バック、レイン、ミンテア、ハーシャじゃ。この四人に今一度盛大な拍手を!」
割れんばかりの拍手と歓声が会場を包んだ。たっぷり三十秒程時間を取った後、再びアナスタシアが口を開いた。
「今日はこれ以上お堅い事は言わぬ。祭りを楽しんでくれ。さて、これより二時間後、ここで料理対決が行われる予定じゃ。我らが宮廷料理長のチャップと旅の料理人フリッツによるお菓子対決じゃ。審査員には城内から抽選で二人出るが、都民枠がまだ三つ開いておる。抽選じゃ、興味のある者はぜひクジを引いて行ってくれ。以上じゃ!」
アナスタシアが話を終えるとクジ引きの箱が兵士によって運ばれてきて、五十人程が並んでクジを引いた。それぞれがクジを開くと、男の子が一人、お爺さんが一人、中年の女性が一人当たり、フリッツとチャップが好きな物などを聞くため話す時間が設けられた。
「おー、なんだか楽しそうだな」
「ああ、後で見に来よう。バック、酒場に行こう。話がある」
「わかった」
二人が去ろうとするとミンテアが声をかけた。
「ちょっとー、あたしら置いてく気なの?」
「悪いな。男だけの話だ」
「えー、やらしい店にでも行く気?」
ハーシャは目を丸くした。
「え! そ、そんな! いくら勇者だからってこんなに目立つ日にそんな勇気を出さなくても」
「何言ってんだハーシャは。そんな訳ないだろ。じゃあな」
二人は去って行った。ミンテアはため息をついた。
「まったく。せっかく久しぶりに会ったっていうのに。ハーシャ、行きましょ。その辺少し周ろうよ」
「ごめん、あたしも用事があって。プラントの調整を少ししなきゃいけないの。ここには一応戻って来るんだけど別行動になっちゃうかな」
「しょっく!」
「じゃあね」
「うん」
アナスタシアは四人がバラバラになったのを見てミンテアに近付いて来た。
「何じゃミンテア暇なのか?」
「アナスタシア様。皆予定があるみたいで。置いてかれちゃいました」
「ふうん。よし、じゃワシに付いて来るがよい。あっちで射撃やるぞ射撃」
「え。まさか遊ぶんですか?」
「そりゃそうじゃろう! ワシは女王じゃぞ!」
「いや意味がわかりません」
「カッカッカ! なあに遊ぶと言っても三十分くらいじゃ。用事があるでの。ほれ行くぞ」
「はい、お供します」
広場で遊ぶために女王、僧侶、兵士六人の即席パーティが出来上がった。
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