第11話
「ね〜、これやっぱり変じゃないかなぁ?」
式典の朝、魔法使いのハーシャはパレード用の服を着て鏡の前でウロウロしている。
「大丈夫よ、別に変じゃないって」
鏡の前で口紅を引きながら僧侶のミンテアがロクに見ずに答えた。ミンテアもいつもの修道服ではなく、パレード用の豪華なローブを羽織っている。
「うーん。いつも黒を着てるから違和感がすごくて」
ハーシャは今回は白地に黒のライン、銀の装飾が入ったローブを羽織っていて、裏地のキラキラした水色が時折覗き、それがアクセントになっている。
「華やかな式典ですから、いつもの黒のローブですとかえって目立ってしまいますよ」
服屋のシャロンはニコニコしながらハーシャを眺めた。
「とてもよくお似合いですよ。賢者様に相応しい衣装でございます」
「け、賢者じゃないんですけど」
「それにこれくらい派手じゃないと! なにせ魔王を倒した伝説の勇者様御一行なんですから!」
シャロンは拳を握りながら虚空を見つめ熱く語り出した。
「凶悪な魔物がはびこる新大陸。数々の試練を切り抜けついに魔王城にたどり着いた彼等を待っていたのは今までとは比べ物にならない魔物達だった……!」
「比べ物にならないくらい震えてましたけど」
「邪悪なる獣王、デスドッグ! 殺意に満ちたその双眸を見据え、勇者様は伝説の道具『タブレット』を取り出した……!」
「前から思ってたけどこの子変わってるわー」
「迷子の犬だと思って大臣に連絡しようと思った所だったんだよね確か」
「デスドッグを迷子の犬扱いとは……さすが勇者様ですね。あまりにも強くなりすぎて葬るのは児戯に等しいと、そういう訳ですか」
「写真見る? 可愛いから撮ったの」
ハーシャがタブレットを取り出すとシャロンは興奮した。
「うわあ! これがタブレットですか? すごい! 感激です!」
ミンテアはシャロンの反応が面白くて自分のタブレットを出した。
「ほれ」
「わあすごい!」
「これがデスドッグです」
ハーシャがデスドッグの写真を見せた。狭い部屋の隅っこで子犬のように丸まっている。魔王城の大理石の床が却って寂しさを感じさせる。
「ほんとだ……迷子犬ですね、完全に」
「あんまり気の毒なんで倒さずにお菓子を置いてそのまま見逃してきちゃいました」
「美味しかったのになああのクッキー。誰だっけあの人?」
「フリッツさんだよ。有名なんだから」
「あ、そうなの。修道院じゃ甘い物禁止だったからそういうの分からなくて」
「そうなんだ。あ、そろそろ時間みたい。行こうミンテア」
「もう? な、なんか緊張してきちゃった……!」
「笑って手を振るだけだよ~。ミンテアは普段強気なのにこういうの弱いんだから」
シャロンは笑って二人を見送った。
「私も見学してますから! 楽しんで来てください!」
その頃、アナスタシアも準備を終え、部屋で紅茶を飲みながら時間が来るのを待っていた。開いた窓からは既に祭りを楽しみ始めている声が聞こえてきている。メイドにカップを返すと杖を持ち、アナスタシアは立ち上がった。
「よし、行くぞ」
「はっ」
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