そのころの王妃

「今日も大量だべ~♪」


「んだんだ。美味しい魔物が沢山いていいけろよ~♪」


もはや集落という位置から離脱して一つの町……いや、ダンジョンと化したこの国

ほんの千年前までは人々の暮らしの痕跡のあったその場所。しかし始原と呼ばれる彼らと魔族と呼ばれるであろう彼らは魔法の研究を行い続けた過程でこんな突拍子のない話が出てきた


「いっそのこと、土の中で暮らせねぇか?」


彼らの魔法技術は科学と呼ばれるものに近いことが可能になっていた。魔力濃度が高くなり強力な魔物が住み、産まれ始めたこの地。彼ら以外の人類がここの魔物を狩ることができるであろう、数万年後において。賢者の石と呼ばれるであろう魔石とそれにたがわぬ奇跡のように人類にとって都合が良すぎる性質を持っている素材を建材として、巨大な地下都市を作り上げた


そこには魔物の侵入を防ぐトラップや魔法によって作られた人造の魔物が多数徘徊している。老いることも死ぬこともない彼らの無尽蔵の繁殖スピードに対応するようにその空間は洗練された魔法によって異界となっていた。仮に某小説サイトにあるように区分をしたとすれば、深層、深淵、奈落……と掲揚できる。しかしそんな場所であったとしても神域と化し、魔力の楽園となったこの場所に侵入する魔物もまた…伝説の化け物クラスだ。それは低級の神を食い殺すことが出来る程度の力を持っているのは確実だろう


そんな日々が続いたのは今からほんの300年前。さて、現在はどうなっているかといえば……


「皆さんご苦労様でした。これで民の飢えをしのぐことが出来ます」


……巨大な城が立っていた。見る者が見れば魔王城としか言えないその建物。この建物が出来た背景というのは


「いちいち地上に出ていくのはめんどうだ~。狩りに行くやつの家がほしいぞ」


そして過去のような小さい家を複数作るより、大きな一つの家に皆で住んだ方がいいということで、狩りに出かける村人たち全員と獲物である魔物を貯蔵できる建物として城が出来上がった。こんなことしなくても収納魔法や転移魔法を作ればいいと転生者は考えるのだが……彼らの常識では収納魔法と転移魔法を発想すること自体難しいことだろう


「王妃様、次の獲物はどれに致しましょう」


王妃の立つ場所。普通の異世界の城であれば謁見の間正面にあるバルコニーや人民に対して演説を行うであろう位置と場所。しかし、ここの住人にとってこの場所は見張り台以上の価値を見出していない。もはや、この地だけで独立した生態をしており、地形も魔物同士の縄張り争いや住人の魔法の研究によってかつての面影は一切ない地獄だった


「では、あの大きなトカゲと。小さい鳥にしましょうか……」


王妃が指さしたのは、今から数千年後において[グランドドラゴン]と呼ばれる巨大な山のように大きなドラゴンと、[スカイサタン]と名付けられた。数千年後に出来上がるであろう帝国を滅ぼした破壊神と言い伝えられる、虹色の鳥だ


「わかりやした!今夜はごちそうですな♪」


しかし、始原や魔族にとっては彼らはただの食料でしかない。そんな化け物が生まれ、それを狩る化け物が生まれる異界として、この神域は成長し続けていた

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