僕たちの冒険はこれからだ! 〜異世界に転生したけど元いた世界に恨みがあるので最強の復讐をします〜
北 流亡
"エピローグ"
魔王は天空に向かって咆哮した。
空気が、激しく震える。
憤怒にも慟哭にも聞こえる、そんな叫びであった。
追い詰められた魔王は、禁術によって人ならざるものへと変貌した。
悪魔。そう形容するのが適当だろうか。狡猾な人間だった頃の面影は微塵も無い。その体躯は天を擦るほどに高く、手足は大木の幹のように太い。
「動きを鈍らせる、四方へ!」
"勇者"ゼイルが叫ぶ。それに呼応して他の3人が、魔王の左右と背後に動いた。
魔王が右腕を振るう。理性の欠片も無い、力まかせの一撃である。
壁が爆ぜた。ただの殴打が石壁を容易く粉砕した。ゼイルの背中に冷たいものが走る。かすっただけでも致命傷になりかねない。
魔王は二撃目の拳を振り上げる。が、その動きは格段に鈍くなっていた。ゼイルが放っていた毒針が全身のあちこちに刺さっていた。
「ジョー!
「はい! 魔法剣"
"魔法剣士"ジョーが叫ぶと、剣が激しく緑色の光を放った。
魔王が爪を前に突き出す。しかし、既にジョーは魔王の背後にいた。魔王の肩に剣が刺さっていた。すれ違いざまの動きは誰にも捉えられなかった。
魔王が絶叫する。
ジョーの攻撃の効果で、物理防御術および魔法防御術の効果が消えていた。
「
真空の刃が、魔王の全身を切り刻む。
"
"
細く、深く呼吸をする。赤い光の奔流が足下から逆巻く。
「
「待てアイラ! それだと殺してしまう!」
「……
ゼイルの指示でアイラは咄嗟に威力を弱めた。炎が魔王の全身を焼く。魔王は苦しみの叫びを上げ、のたうち回る。
ゼイルが両腕を前に伸ばし、手のひらを魔王に向けるように構えた。
「
淡い黄金色の光が魔王を包みこんだ。
前傾姿勢のまま、魔王が止まっていた。まるで凍りついたかのように。
ジョーが魔王の脛のあたりを拳の裏で叩く。こんこんと、氷を叩くような音がした。
「さすがゼイルさん、見事な魔法です」
「危うく殺しちゃうところだったね、アイラは自分の魔力の高さを把握してないから」
リンは口元を緩めてアイラを見る。アイラは俯いていた。
「ごめんなさいゼイルさん、弱らせるだけのつもりだったのに」
「いや、良いんだ。僕も、魔王と僕たちにここまで実力差があるとは思ってなかったし」
ゼイルは微笑みをアイラに向けた。長い旅路で何度も見た表情だ。辛い時や苦しい時もこの表情で仲間たちを勇気づけ、困難を乗り越えてきた。
しかし、アイラはその笑顔に不安を覚えた。
「これで、僕たちの冒険は終わりだ。ジョー、アイラ、リン。君たちがいたからここまで来れたんだと思う」
誰も、何も言わなかった。ゼイル以外の顔は強張っていた。
ゼイルはおもむろに魔王の玉座裏まで歩き、そこにある宝箱から宝石を取り出した。
手のひら大の青い宝石。ほのかに、柔らかな光を放っていた。
「これが時空石だ。文献が事実なら、この宝石の力を使うことによって、転生する前の僕たちが元々いた世界に戻れる……1人だけ」
空気が、張りつめた。ゼイルは淡々と言葉を続ける。
「ただし、その効果は魔王が生きている間にしか発揮されない。魔王の持つ強い魔力が空間の歪みを発生させやすくしているから……らしい。つまり、魔王を殺してしまったら僕たちは元の世界に戻れなくなる」
ゼイルは全員を見回した。誰1人として、目を合わせようとする者はいない。
「時間凍結魔法の効果が解除されるまでおよそ6時間。それまでに僕たちは結論を決めなければならない」
魔王城は魔王の暴走により完全に崩壊しており、あたりに瓦礫が散乱していた。そのうちの一つにゼイルは腰掛ける。
「さあ、話し合おうか。誰が元の世界に帰るかを」
ゼイルは懐中時計を取り出し、無造作にぶら下げた。
静寂の中、針の動く音だけが響く。
ジョー、アイラ、リンの3人は、立ったままゼイルの方を向いていた。
ジョーが、全員の様子を窺いながら、小さく前に出た。
「俺は……元の世界には帰りません」
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