5人目 流本桃香

私は今まで、誰かを好きになったことがない。


恋愛感情がわからないし、恋って何?って感じで生きてきた。


別に恋を知らずに困ることなんて今までの人生にはなかったし、誰かを好きになれないからと言って、損をすることもなかった。


ありがたいことに友達はたくさんできたから、その分恋バナとか、恋愛に関するいろんな意見、思い、感情には数えきれないほど触れてきた。


でもそのどれもが、私の心には響かなくて。


ある友人は長い息を吐くように言った。

「恋愛っていいよぉ…マジで人生の幸福値が爆上がりする。辛いこともあるんだけどね」

なにそれ。幸せになれるなんて断言できないし、辛いことを経験してまでその幸せを享受したいとは、私は思わない。


そして別の友人はこう言った。

「もう恋愛なんてしない。こんなの、片方が幸せになって、もう片方は悲しくなるだけの勝率50%の賭けだよ…」

賭け?恋愛ってそういうものなの?もしそうならもっとわかんないよ。幸せになるか否か、50%の可能性に賭けるより、自分で努力して確実に幸せつかむ方がよくない?


いろんな意見に触れるたび、私の周りにたちこめる、恋愛に対する疑念は、どんどん濃くなっていった。


考えれば考えるほどわからない。


だが結局のところ、私は幸せになりたいんだなぁ、ということだけは分かった。


その手段として恋愛は選ばないよ、というわけで。


つまり私は、幸せになれれば恋愛をしなくてもいい、というスタンスなわけだ。


そんな私にとって便利な言葉がある。

「恋愛はいいかなぁ、恋してなくても今最高に楽しいから」


中学生になったあたりから、そこそこの数の異性に言い寄られてきたが、そのたびにこのフレーズを使って、のらりくらりとかわしてきた。


ある人は言った。

「顔がいいのにもったいないよ~」

もったいないって何?宝の持ち腐れって言いたいの?私が私の見た目をどう生かそうと自由でしょ。顔がいいことを使っていろんな男の人と恋をすることに私は魅力を感じない。


「可愛いのに」「せっかくいいビジュアル持ってるんだから」


そんな言葉で私のスタンスを否定された。


周りは私の容姿を高く評価するけれど、私はどちらかというと自分の見た目が好きではなかった。


その見た目をしているのなら、恋愛をして当然、恋愛するのが普通、なんで恋愛しないの?


なんていう価値観の押し付けに遭うから。


だから私は、恋愛というものから距離を置いていたのだけれど…


高2になって、言い寄ってくる男子の数が増えた。

流石にもう疲れた、と理解ある友人に相談したところ、恋人ができたことにして、予防線を張っておけばいい、という趣旨のアドバイスを受けた。


確かに効果は高そうだが、嘘をついて他人の恋を無慈悲にも終わらせてしまうということには気が引けた。


ところがこうも思った。

私は恋愛そのものを否定して生きてきた。

であれば、他人の恋が、私の知らないところで終わることにも無頓着でいるべきだ、と。


どこかで納得した私は、幼馴染に相談し、高校卒業までの間、付き合っていることにしてもらうことで同意した。


私が、私だけの恋を見つけられる日は、来るのだろうか。



流本桃香るもとももかは──

恋を知らない


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この恋、一方通行につき。 山代悠 @Yu_Yamashiro

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