3人目 茂野芳葉
私には好きな人がいる。
隣のクラスの
彼はバスケ部に所属し、エースではないそうだが、チームには欠かせない存在で、試合に出ると必ず勝利に貢献してくれるらしい。
らしい、というのも、私は彼と直接話をしたことがないのだ。
隣のクラスだし、私はバレー部員だし…
そんな私が彼を知ったきっかけは、部活に精を出す彼の姿を見たことだった。
私の高校は、バレー部とバスケ部が体育館を分け合って使って部活動をする日が設けられている。
高校に入って間もないころ、私が新入部員だったころ。
彼も私と同じように、新入部員としてバスケ部の活動に参加していた。
彼がボールをついて、前に立ちはだかる、自分よりも頭1つ分以上背の高いディフェンスの間を縫い、瞬く間にゴール下へ進入する。
鮮やかで、洗練されているプレーだった。
その後も彼は先輩の執拗なディフェンスに負けじとプレーし、彼自身のプレーを最後まで貫いた。
そしてホイッスルが鳴ると、彼はチームメイトに向けて笑顔を振りまき、ねぎらった。
遼太郎の華麗なプレーと、彼が見せたさわやかな笑顔に、私は一瞬で惚れ込んでしまった。
その日以来、私は隣のクラスにいる友人とお昼ご飯を一緒に食べるという名目で、昼休みには決まって彼の教室を訪ねた。
だからといって、彼に話しかけたり、彼とご飯を食べたりすることはしないのだが。
私が遼太郎のことを好きだと知っている友人からすれば、かわいらしい行動だったらしいが、私としては私なりに勇気を振り絞っての行動だったのだから、そう言われてしまっては、いささか憤りたくなるところがあるというものだ。
すっかり習慣になったランチタイムを、いつものように過ごしていた時、遼太郎の所属する男子グループの会話が聞こえてきた。
どうやら好きな異性のタイプについて話しているらしい。
私としては聞き逃すわけにいかないし、私と一緒にご飯を食べていた女子たちも聞き耳を立てている風だった。
「いや俺やっぱ年上好きだわ、包容力を欲してる」
「あーまぁ、わからんでもない。ただ俺はやっぱり年下を可愛がりたいわ」
「なんかお前、きもい…」
その男子の輪は、大きな笑いに包まれた。
彼らには申し訳なかったが、私にとって彼らが年上好きだろうが、年下好きだろうがどうでもよかったのだ。
とにかく私が聞きたかったのは、遼太郎の話。
彼の恋バナなんて、めったに聞けない。
実際高校に入ってから噂すら耳にしたことがなかった。
遼太郎に話が振られる瞬間を今か今かと待っていると、ついにその時は来た。
「んで、遼太郎はどんな女子が好きなん?」
来たっ!!
と思って、私はそれまで半分ほどは手元のお弁当に向いていた意識をそちらに向けた。
「ん-、可愛い系で、身長は低めで、小動物みたいな?わからんけど」
「おぉ~いいなぁ、それ」
可愛い・身長低め・小動物っぽい
彼が言っていたのはその3点だ。
そして私は、瞬時に自分に意識を向けた。
私はすれ違った男性が振り返るほど容姿端麗ではないし、身長は高く、半分以上の男子よりも背が高い。小動物っぽい可愛さなんて、みじんもない。
その時私は悟ってしまったんだ。
”彼に好きになってもらうのは、無理だ”と。
それまで、なんとかして彼の目に留まろうと、小さいながらも努力をしてきた。
昔から続けてきた空手ではなく、高校に入って勧誘を受けたバレー部に入ることを決めたのも、遼太郎と同じ体育館で部活をしたい、という思いがあったから。
もちろんそれがすべての理由ではないが、確実に入部の切り札にはなっている。
そして、今もこうして彼の近くで昼食をとって、なんとか接点を作ろうとしている。
確かに、部活の前や昼食時に、彼から話しかけられないかなぁと他力本願な私がいるのは事実だ。
それでも、私が彼を好きなのも本当。
だからこそ、つらかった。
受け止めるには、時間がかかりそうだと思った。
でも、いずれは諦めなければいけなかった。
私は泣きそうになるのをこらえながら、8割が残っているお弁当に手を伸ばした。
思い人の理想になることを、諦めた
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