2人目 飯島怜未

私には好きな人がいる。


同じ高校の茂野芳葉しげのよしはだ。


えっ?女の子が女の子のこと好きなの?

って思った?


そうだよ。

私は女子だけど、同じ女子である芳葉のことが好き。


今の時代、珍しいことでもないでしょ?

って言う人もいるよね。


確かに、世間全体で見ればそうかもしれない。

でも、個人のそれぞれの事情についてこまごまと考えてみると、案外そうでもないのかも。


実際、私の周りには同性愛だと告白している人は一人もいない。

一人もだ。


周りに言っていないだけかもしれないけれど、見る限り周りの女子は異性が好きなようだ。


私は今までに、男の人を好きになったことはなかった。

かといって、女の人を誰でもかんでも好きになってしまうわけでもない。

ただ一人、芳葉だけなのだ。


彼女だけが、私にとっての特別で──


私と彼女の出会いは、小学校までさかのぼる。

一桁年齢の頃に出会って、それ以来ずーっと一緒。


高校まで同じの幼馴染がいるっていうケースは、意外に珍しいから、お互いにとって本当に大親友だ。


私たちが中学生だったある日の放課後、コンビニでトイレに行ってくると芳葉が言ったので、私はコンビニの前で待っていた。


すると、目の前にぬぅっと黒くて大きな影が立ちはだかった。


「こんにちは~、お姉さん可愛いね」

「何歳?あ、もしかして高校生?いいねぇ~」

「10代に人気のカフェあんだけどさ、今から一緒に行こうぜ」

「す、すみません、友達を待っているので…」

その影の主は、たまに噂で耳にする、隣町の不良風の中学生たちだった。

どんな噂かは言うまでもないが、私としては関わり合いを避けたい人種だった。


「え~いいじゃ~ん」

「じゃあさ、そのお友達も一緒に…」

「おい」


後ろから低い声がして、私ははっと後ろを振り返る。


芳葉だ。


「あんたら、何?用があるなら私も一緒に聞くけど」

「お~、お友達かな?ちょうど今、カフェ行かないか誘っててさぁ~、どう?」

「はぁ?どうって…行くわけないじゃん。行こう、怜未」

「う、うん」


芳葉は臆することなく男子中学生3人に盾をつき、私と彼らの間に入ってくれた。

そして私の手を引いてその場を立ち去ろうとするが…


「まぁまぁまぁまぁ、ちょいと待ってくれよ」

「話はまだ終わってなくてさ」

「終わりだよ、行かないの。わかったならどいてよ」


芳葉のその挑戦的な態度に、彼女と3人の間に戦慄が走ったのが感じ取れた。

だが私はあまりの恐怖で何も言えなかった。


「なんだよお姉さん。怖いな~」

「いいじゃんいいじゃん、行こうよ」

そう言って一人が芳葉の手首をつかんだ瞬間──


「いでででででで!!」

「あっ!?!?」


男はその場に座り込んでしまい、さっきまで芳葉の手首をつかんでいたはずの右手をさすっている。


「てめぇ!?何しやがった!?」

「ん?折れる寸前までやっただけ。あんたらもやられたい?」

「っ…行くぞ」


芳葉のただならぬ雰囲気と怒気に圧倒されたのか、彼らは足早にその場を立ち去った。


この出来事が、私が芳葉に恋をした理由。

単純に、カッコよかった。

言ってしまえばそれだけ。それだけで好きになれてしまうのだから、私って結構単純なのかもしれない。


それ以降、私は芳葉と友達以上の関係になりたいと望んできた。

手をつないでみたりもした。抱き着いてみたりもした。


でも芳葉は、私にそんなことをされても心が動くことはないようだった。


(私ばっかりドキドキして…バカみたい…)


時折そう思うこともあった。でもいつの日か、いつかは、芳葉が私の思いをわかってくれる。そんな日がくるって、心の奥底で信じてた。


だから──


芳葉から恋愛相談をされた時、急に目の前が暗くなって、足場がなくなったような感覚に陥った。


いきなり断崖絶壁に立たされたような感覚。

神様から、「もうあなたはここから先に進めないよ」と、冷酷に突き付けられたような感覚。


彼女は、別の男子に恋をしていた。


そうだよ。それが”普通”なんだよ。私が、だけ。


そうだと気づいてしまったら最後、私は自分の恋情にそっと蓋をした。


軽い木製の蓋じゃなくて、二度と開かないように、金属でできた、大きくて重い蓋をしたんだ。


さようなら、私の恋。

そして、さようなら──


飯島怜未いいじまれみは──

レズビアンだった

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