この恋、一方通行につき。

山代悠

1人目 秋山大輔

俺には好きな人がいる。


同じクラスの飯島怜未いいじまれみだ。

高校に入って、一目惚れをしてしまったんだ。

彼女の愛くるしい見た目に、俺は一瞬で恋に落ちた。


同じクラスということもあり、学校生活を通して彼女の内面にも、どんどん魅せられていった。


性格は明るいが、決して主張しすぎることもなく、あくまでみんなが心地よく過ごせるように、というスタンスで立ち回り、誰か暗い顔をしていると、さりげなく声をかけてあげる。そういう意味で優しい人だ。


五十音順で並べられた座席では、俺は怜未の一つ前の席だった。

そのおかげで、コミュニケーションをとる機会は多々あったし、そのおかげで俺も彼女についていろいろ知ることができた。


しかし、中間テストが終わると席替えがあり、俺は怜未と席が遠くなってしまった。

それ以来、俺と怜未の関わりは薄れた。


今の時代、メッセージアプリを使っていくらでも話せるじゃないかって?


その通りだ。

俺たちはクラスのグループチャットというものに入っていて、怜未個人に対しても、送ろうと思えば数回の操作でメッセージを送ることができてしまう。


だが、俺はできなかったんだ。


行動を起こそうとするたびに、心臓の周りがざわざわして、キュッとなって。

結局何もできないままだった。


寝る前なんかは、怜未の顔が頭に浮かんで、「明日こそ声をかけよう」「明日は休日だからメッセージを送ってみよう」とか思えてしまう。

でも翌朝になると──

そんな心意気はすっかり消えてしまって、「明日頑張ればいいよね」「焦る必要なんてないだろ」という言い訳や、情けない自分をかばうような念だけが心を埋め尽くす。


俺は俗にいう、”ヘタレ”だった。

奥手とも形容されるが、男子の間では時たまけなす意味を込めて、この言葉が用いられる。


結局のところ、自分が傷つくのが怖かったのだ。

アプローチして、失敗したらどうする?


自分の恋が失敗する未来しか考えていなくて、その未来で傷ついている自分の姿だけを想像してしまう。


そして、そのことを自覚している自分のことまでも嫌いになってしまう。

最終的には、恋なんてしなければよかった、とさえ思い始める。


でも、日に日に彼女は自分の中で輝きを増していくばかりで。


流す涙の量に比例するように、自らの恋情も膨れ上がっていく。


それでも、いつか悟る。


この恋を成就させるのは、自分にはできない、と。


だから俺は、この思いを己の心の奥底にしまっておくことに決めた。

二度と湧き上がることのないよう、何個も鍵をかけて。




秋山大輔あきやまだいすけは──

ヘタレだった

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