第61話「システムコード『Berserk』を実行しました」

「システムコード『Berserkベルセルク』を実行しました」


 それが魔法で作られた人工音声なのだと、すぐに理解する。

 同時に俺は周囲の魔力が、異常なまでに高まり始めたのを感じ取っていた。


 何かが起こっている。

 そして俺は何もしていない。


 つまり今ここで何か事を起こせる奴は、エンドレス・ウォーカーしかいなかった。


「今、何をした?」

 俺はエンドレス・ウォーカーの胸ぐらを掴んで引き寄せながら問いかける。


「はっ、はははっ! あははははははっ!」


 するとエンドレス・ウォーカーはそれはもう可笑しそうに、あざけ笑いに満ち満ちた声を返してきた。


「何が可笑しい?」


「聞きたいか? 聞きたいよな? くくっ、いいだろう、冥途の土産に教えてやる! 今まさに世界が終わろうとしているのだよ! 君はその目撃者になるのだ!」


「冥途の土産? 世界が終わるだと? どういう意味だ?」


「言葉通りの意味さ。魔力の高まりを感じているだろう? これはね、実験体334号の天使炉が暴走しようとしているのさ」


「なっ!? サファイアの天使炉が暴走だと!?」


「そうだ。私と実験体334号のアクセスが外部から無理矢理切断された時、天使炉が暴走するように、あらかじめプログラムが設定されていたのさ。それがシステムコード『Berserkベルセルク』。世界に終焉をもたらす破滅のコードだ!」


「な──っ」


「暴走した天使炉は臨界を超えて、その膨大なエネルギーを一気に外へと放出する。周囲数百キロに及ぶ大爆発は、その範囲内を完全に破壊し尽くすだけでなく、数千トンに及ぶ膨大な粉塵を空へと巻き上げるだろう」


「まさか、人工的な寒冷化を引き起こすってのか――」


「おやおや、脳筋かと思っていたが、意外と察しがいいんだね。そうだ! 世界中が分厚い雲に覆われ、太陽は地上を照らすことはなくなり、世界は闇に沈み、大地は凍る!」


「なんてことをしやがる……!」

「私じゃない。君のせいだ」


「はぁ? 何をわけの分からないことを」


「いいや、君のせいで世界が滅ぶのだよ! 君が私に勝ってしまったせいで、私は天使炉へのアクセスを失い、天使炉は暴走し、世界が滅ぶ! ははは、自分のせいで世界が滅ぶと知って、どんな気分だ正義の味方! ザマァみろだな!」


「止める方法を言え。今すぐにだ!」


「もはや何をどうやっても、止められないさ。システムコード『|Berserk(ベルセルク)』は一度実行されると終わりの、不可逆の命令だからね。たとえこの私であっても止めることはできない。ゆえにペラペラと君にも何が起こっているかを喋っているわけだ。無力感と絶望を与えるためにね!」


「くそ野郎――」


「おおっと。そういえば止める方法が1つだけあったか」


「それはなんだ! 言え! 言うんだ!! 言わないようなら、もはや手段は選ばない」


 さすがにここまでの緊急事態となったからには、法の順守なんてことは言っていられない。

 隠すつもりなら実力行使してでも吐かせる――と俺は強烈な意思とともにエンドレス・ウォーカーの胸倉をつかみ上げてグイッと引き寄せたたのだが。


 エンドレス・ウォーカーは傲慢に笑みを浮かべたまま、嬉しそうに言いやがった。


「簡単なことさ。実験体334号を殺せばいい。そうすれば天使炉も止まる。天使炉は実験体334号と完全に一体化しているからね。アレを殺せば当然、天使炉も止まる。君風に言うと、簡単な話だ」


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