第60話「エンドレス・ウォーカー、お前を逮捕する」

「あ、あがぁ……!? ち、血が!? 血が出ている! 私の鼻が! 鼻が折れているぞ!? 痛い! 痛いイタイ痛い、痛いぃぃぃぃぃ!」


 俺にぶん殴られたエンドレス・ウォーカーが、地面に寝そべったまま鼻を抑え、痛い痛いと、分別のきかない子供のように泣きわめく。


「鼻が折れたくらいで大げさだっつーの。めちゃくちゃ手加減してやっただろうが」


「ぐぅっ、くそがぁっ! 脳筋エージェントの分際で、この私の顔を殴るとは

……!」


「おいおい、今は戦闘をしてるんだぞ? 相手から殴られることもあるだろ。まさか自分が一方的に攻撃するだけだとでも思っていたのか?」


「く――っ」


 まぁ、思っていたんだろうな。


 天使炉を手にした自分は最強。

 負けるはずがない。

 一方的に蹂躙してやると。


「なによりこれは必要悪だ。お前みたいに順法精神の欠片もない、言っても聞かない不逞のヤカラには、力で抑えつけることが必要だからな」


 だから治安維持組織イージスが結成された。

 法律を守って真面目に生きる一般市民を、無法者どもから守るために。


「くそっ、くそくそくそくそくそっ!! だがなぜだ!? なぜこうも一方的に負けるんだ! 天使炉を手にした私は、魔法使い1000人分の魔力を常に使い続けられるんだぞ! なのに、なぜ!」


「今のはだいたい10万人分くらいの魔力を込めたからな。1000人分でどうにかなるはずがないだろ。簡単な算数の話さ」


 俺がさらりと告げると、


「じゅ、10万人分の魔力だと……!?」


 エンドレス・ウォーカーは呆気にとられたように、ぽかんと口を半開きにした。


「ちなみにこれでも全力には程遠いからな。妙な希望を抱かないように一応、言っておくな」


「ば、バカな! そんな馬鹿な! バカなバカなバカな!」


 エンドレス・ウォーカーは子供のように首を振りながら、尻餅をついたままで後ずさりをし始めた。

 もちろん逃がしはしない。


「言っただろ、本物を見せてやるって。借り物のお前は、天使炉と魔力をやり取りする許容限界があるせいで1000人分で限界。対して俺は10万人分だろうが100万人分だろうが、その気になればいくらでも魔力を引き出せる。それこそ無限にな」


「う……ぐぅぅ……!」


 実際のところ、そこまでの大魔力を引き出すと、俺の身体が魔力負荷に耐え切れなくなる可能性はあるのだが、まぁそれはいいだろう。

 あくまで理論的には可能という話だ。


「さてと。この感じだともう一発、同じ攻撃をすれば、魔法機を完全に破壊することができそうだな」


 魔法機がなければ、こいつの戦闘能力は完全にゼロになる。


 俺は10万人分の魔力を乗せた右拳を、尻餅をついたまま俺を見上げるエンドレス・ウォーカーにストレートで叩き込んだ。


 ボンッ!


 エンドレス・ウォーカーを守る魔法機が爆発しながら吹き飛び、再び顔面パンチを受けたエンドレス・ウォーカーが、


「ブゲェェェェ――っ!」


 ブタが尻でもひっぱたかれたかのような情けない悲鳴を上げながら、盛大に地面を転がる。


「これでお前は魔法の使えないただの人だ。魔法機に頼りっぱなしで、借り物を使うしかできないお前には、もはや何の脅威もない」


「あが……がっ、がはっ……う、あ……クソが……クソが…………!」


「お前には人道に対する罪、およびそのたもろもろの容疑で逮捕状が出ている。最強の盾イージスの名の元に、エンドレス・ウォーカー、お前を逮捕する」


 手錠を取り出し、鼻血で顔を真っ赤にしたエンドレス・ウォーカーを後ろ手にして、手錠をかける。


 オペレーション・エンジェル、任務完了。


 ――そう思った時だった。


「システムコード『Berserkベルセルク』を実行しました」


 どこからか声が響いたのは。

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