第59話「紛い物の天使炉じゃない、生まれ持った本物の天使炉で、今からお前を叩き潰す」

「ばかな、そんなのはハッタリだ……!」


「ハッタリかどうかはすぐに分かるさ。さてと。ミリアリアとサファイアが待っているんでな。紛い物の天使炉じゃない、生まれ持った本物の天使炉で、今からお前を叩き潰す」


 俺は右手をグーにしながら親指を立てると、勢いよく下に向けた。

 まるでチンピラのようなジェスチャーだが、それだけ俺はこのエンドレス・ウォーカーというクズに怒りを覚えていた。


 と言っても頭は冷静なままだ。

 気持ちはホットに、頭はクールに。

 OK。

 いつも通り俺は最強だ。


 そして俺の戦意に呼応して魔力が――異常という言葉が陳腐に聞こえるほどに――桁違いの異常さで膨れ上がっていく。


 俺の中にある天使炉から無限に生み出される膨大な魔力が行き場を失い、俺の身体から溢れ出て、黄金のオーラとなって立ち上り始めた。


「魔法に変換される前の魔力が、可視化しているだと!? なんて膨大な魔力だ!? う、嘘だ! 全部嘘だ! さ、さてはトリックを使って私を騙そうとしているな? そうだ、そうに違いない! こんなことはありえるはずがないからな!」


「おいおい、さっきまでの余裕っぷりはどうしたんだ? 言っておくが、ここまで盛大に枷を外したのは久しぶりだからな。死ぬまで続く刑務所人生で忘れることがないように、しっかりと目に焼き付けておけよ?」


 俺は上空に向かって無造作に魔力を放出する。

 すると巨大な黄金の滝が逆流するかのように、極太の黄金の魔力砲撃が天を突いて昇っていく。

 黄金の逆流滝は、周囲にあった雲を吹き飛ばしながらはるか天空に消えていった。


「馬鹿な……だがこの膨大な魔力量。あれだけの魔力を一気に放出しながら、一瞬で魔力が充填される。間違いない、これは天使炉だ! こんな芸当は天使炉にしか不可能だ!」


「やっと理解できたか」


「だが……!」

「ん?」


「そんな馬鹿なことがあってたまるか! 私が人生をかけて発明したものが、既に世界に存在していたなんて……! そんな馬鹿なことがあってたまるか!!」


 エンドレス・ウォーカーが怒りのこもった瞳で俺を睨む。


「無駄で無価値で無意味な人生だったってことだな。ご愁傷様」


「ぐぅぅぅぅ!」


「さてと。そろそろ、借り物を使っているだけのお前と、本物を持った俺。どっちが強いか実証実験をするとするか」


 俺は一気に懐へと飛び込むと、魔力を込めた右拳をエンドレス・ウォーカーにぶつけた。

 エンドレス・ウォーカーの身にまとう魔法機が起動し、サファイアの天使炉から吸い上げた魔力を使って魔力障壁を展開、俺の右拳を跳ね返そうとする。


  バチッ、バチバチ!

 

 しかし激しい破裂音がして、魔法機が火花を散らしながら煙を上げ始めた。

 想定を超えた膨大な魔力をぶつけられたことで魔法機の扱える限界を超え、負荷に耐えきれなくなったのだろう。


 俺は特に抵抗を感じることもなく、そのまま右拳を振り抜いた。

 ドンっと、音がして顔面パンチを喰らったエンドレス・ウォーカーが吹き飛び、地面を転がる。

 もちろん殺さないように手加減はした。


 イージスのエージェントは公務員。

 法を順守することが求められる。


 悪逆非道な犯罪者といえども、むやみやたらと殺しはしないのだ。

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