第34話 カケルの好みについて、妙に詳しいミリアリア
いろいろ準備をして昼過ぎ。
俺たち――俺、ミリアリア、サファイア、ポメ太、ピースケ2号――はたくさんの桜が植えられた広場に行くと、レジャーシートを広げて、そこに食べ物と飲み物を並べて、お花見を始めた。
サンドイッチ、おにぎり、よもぎのおはぎ、玉子焼き、たこさんウィンナー、唐揚げ、ハッシュドポテト、ラスク、ウサギカットのリンゴetc...
ミリアリアとサファイアの用意した、色とりどりの食事は、どれもこれも美味しそうだ。
「お、玉子サンドじゃないか。どれも美味しそうだけど、まずはこれから貰おうかな」
「玉子サンドはカケルパパの大好物ですもんね」
「あれ? 玉子サンドが好きって、ミリアリアママに言ったことあったっけ?」
「そんなの見ていれば分かりますよ。軽食を買う時に、明らかに購入頻度が高いですから」
「よく見てるなぁ」
「こう見えて、わたしもイージスのエージェントですからね」
「ミリアリアママは本当に頼りになるよ」
俺はエージェントとしてのミリアリアの優秀さに、改めて感心した。
「ちなみに2番目に購入頻度が高いのは、ツナマヨおにぎりですね」
「そうなのか。それはちょっと知らなかったな」
自分のことを、他人の方がよく知っているというのは、なんだか少し不思議な感覚だ。
「さらに3番目は高菜おにぎりです。4番目がアップルパイで、5番目がチョコチップメロンパンになります」
「へ、へぇ……」
「その後はホイップあんぱん、普通のあんぱん、明太子おにぎり、焼きそばパン、コロッケサンドなどが僅差で続きますが、ここまでくるとサンプル数が少なく有意な統計データとは言えないので、順位的な差はなく、誤差の範囲と言えるでしょう」
「……く、詳しいな。俺自身、何を買っているか、そこまで意識したことはないんだが。いや、全部好物なのは間違いないんだけども」
っていうか俺が何を買ってるか、ミリアリアがここまで緻密にリサーチしているのが、ちょっと怖いんだけど……。
いや。
人の優れている点に対して、こういうマイナスな考えを持つのは良くないな。
ミリアリアが優秀なエージェントであることをさらにさらにしっかりと再確認できたと、隊長である俺は喜ぶべきだろう。
「ちなみにサンドイッチのパンの耳は、サファイアが切り落としたんですよ?」
「マジか?」
俺は驚きとともにサファイアを見た。
「うん!」
するとサファイアが少し自慢げな笑みを浮かべる。
「ママと一緒にやったんだよねー」
「ママに、てつだってもらって、がんばったの!」
「それはすごいな」
「ちなみに切り落としたパンの耳はラスクにしました」
「あまくて、かりかりだよ!」
「切った耳を捨てるのは、もったいないもんな」
「しかもなんと、玉子ペーストをパンに挟んでサンドイッチにしたのも、サファイアなんだよねー」
「えへへー」
「つまりサファイアが作った、ミリアリアママ直伝のたまごサンドってわけか。それはもう、心の底から味わって食べないと天罰が落ちるよな」
「落ちちゃいますよね」
「てんばつ、って?」
「天罰は、神様が怒るってことよ」
「こわそう……」
「神様に怒られないように、早速いただくよ。サファイア、ミリアリアママ。作ってくれてありがとう。いただきます」
俺は両手を合わせて食事を始める挨拶をすると、玉子サンドを食べ始めた。
「すごく美味しい」
「やった!」
「よかったね、サファイア」
「サファイアが手伝ってくれたと思うと、いつにも増して美味しく感じるな」
「いっぱいあるから、たくさん、たべてね!」
「よーし、パパ、サファイアが作った玉子サンドを、いっぱい食べちゃうぞ~!」
「カケルパパ、がんばれ~♪」
「がんばれ~♪」
玉子サンドを食べるだけだというのに、俺の心は春の日差しのような穏やかな温もりで、いっぱいに満ち満ちていた。
親知らずの孤児院育ちで、ダイゴス長官に拾われてからは隊員宿舎住まいだった俺は、家族の温もりというものをほとんど知らない。
家族がいるって。
家庭があるって。
こんなにも素晴らしいことだったんだな。
玉子サンドを食べながら、そのことを実感として強く感じていたのだった。
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