第18話 むくっ! むくむくむくむくっ! シャキーン!

「あれ? 入ったばかりなのにもう上がるのか? ゆっくりしていけばいいのに」

「いえ……」


 ミリアリアは顔を赤くしながら言葉少なげに答えると、浴槽の中で移動して、俺に背を向けながら、足の間に座った。


 そのまま俺の胸に背中を預けてくる。

 ミリアリアの柔らかく瑞々しい肌が、俺の身体にぎゅっと密着した。


 しなやかで瑞々みずみずしく。

 細身だけど、ふわふわとマシュマロのように柔らかい。


 ――などといった、ありきたりの言葉ではとてもいい表せない魅惑の感触が、俺の胸やら腹に広範囲にわたって触れる。


「お、おい、ミリアリア――」


 俺が何かを言う前に、今度はサファイアが立ち上がって、ミリアリアに抱っこされるような形でスポンと足の間に収まった。


 つまり俺・ミリアリア・サファイアの並びで、俺たちはお風呂の中で密着してしまった。


「これなら狭くないですよね?」

「サファイア、いっしょーけんめー、かんがえたの!」


「……ま、家族だもんな」

 2人の息の合ったコンビネーションを前に、俺は苦笑するしかできなかった。


「そうですよ。家族なんですから、仲良くしないとです」

「えへへ、ママとむらさめ、なかよし! だいすき!」


 とまぁ?

 たいへん心温まるやり取りをしていたのだが?


 それにほっこりしていられたのは、最初のうちだけだった。

 と、いうのもだ。


 むくっ。

 むくむくっ。


 おおおおおおおおおああああええええ……っっ!?


 俺の下半身が激しく自己主張をし始めたからだ。


 だがそれもそのはず。

 俺はミリアリアを後ろから抱きすくめている。

 しかもお互いに全裸で。


 男と女が風呂で全裸で密着する。

 すると男がどうなってしまうのか、いちいち説明するまでもない。


 正直、ミリアリアと一緒に風呂に入るという時点で、かなりヤバかった。

 しかし俺はイージスで鍛えた鋼の自制心でもって、ここまで父親役という任務を全うしていたのだ。


 だがそれもここまでのようだった。

 俺の自制心はついに、ミリアリアの女の子の魅力の前に陥落してしまう。


 だが待て、待つんだ俺の身体よ!


 この状況でそれはまずいんだ!

 頼む!

 ここはなんとか耐えてくれ!

 もう一人の俺よ、頼む!


 俺は必死に気持ちを抑えようとするものの、しかし一度反応した身体はそんなことでは止まりはしない。


 むくっ!

 むくむくむくむくっ!

 シャキーン!


「はぅ……」

 ミリアリアの肩が一瞬ビクッと跳ねた。


 ミリアリアは俺と密着していたお尻の位置を、少し前に出してずらそうとする。

 もぞもぞとするミリアリア。

 しかしサファイアがいるため、上手く距離を作れないようだった。


 あー、終わった。

 言わないだけで、ミリアリアが俺の『異変』に気付いているのは間違いなかった。


「あー、その、なんだ」


「な、なにがですか? わたしはカケルパパの変化に何も気付いていませんよ? 何か硬いものが当たっているとかそういうことには、これっぽっちも気が付いていませんので、当然カケルパパが何を聞こうとしているのかも、さっぱり分かりません! 以上!」


 妙に早口で言われた。


「そ、そうか」

「そ、そうですよ!」


 明らかに気付かれているというか、語るに落ちるというか、ほぼ自白してしまっているのだが、それを言うと墓穴を掘るだけなので、ミリアリアが知らんぷりをしていることに気付いていない振りをする。


 気まずくならないように、ここは適当に関係ない話でもしておこう。


「きょ、今日はいい天気だったな」

「そ、そうですね。いい天気でした。太陽の光をいっぱい浴びて、すくすくと育ちそうです」


 ……すくすく育つって何がだよ。

 いや、他意はないはず。


「風もなくて過ごしやすかったよ」

「そ、そうですね。過ごしやすかったです」


「春はいいよな」

「そ、そうですね。春はいいです」


 だからと言って、天気の話をするのはさすがにどうなんだ、俺。

 初デートで緊張している中学生かっての。


「ねーねー、ママとむらさめ。なんで、おふろで、てんきのはなし?」


「な、なんでだろうなぁ?」

「な、なんででしょうねぇ?」


「??」


「そんなことより、ミリアリアママにアヒルマイスターの実力を見せてあげるといいんじゃないか?」


 おおっ!

 俺ってばなんてナイスな話題転換!


「サファイア、ママにも見せてくれる?」

 ミリアリアも上手く話に乗ってくれる。


「うん! えっとね、まず、こうやって、ぶくぶくってして。それからそれから――」


 その後、ミリアリアが見てみぬ振りを続けてくれたこともあって、俺はなんとか下半身と折り合いを付けつつ、家族風呂という激務を全うした。


「つ、疲れた……今までのどんな任務よりも精神的に疲れた……」


 風呂を上がって自室となる部屋に戻った俺は、疲労感から仕事机に突っ伏した。

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