第17話「むらさめも、こっち! 3にんで、ぎゅー、しよ?」
「おめでとうサファイア。これでサファイアもアヒルマイスターだ」
「アヒルまいすたー?」
「そうだぞ。もうアヒルのプカプカの水中ジャンプで、サファイアに勝てるやつはいないってことだ」
「むふっ! ママ! サファイア、アヒルまいすたーに、なったよ!」
「ふふっ、良かったわね」
俺たちが遊んでいる間に頭も身体も全て洗い終えたミリアリアが、シャワーで身体の泡を洗い流しながらにっこりとほほ笑んだ。
「さてと、結構長い時間入ったし、俺はそろそろ上がろうかな」
俺はそのタイミングで、ミリアリアと入れ替わるように湯船を出ようと立ち上がる。
その時にさりげなく股間を隠すのも忘れない。
ミリアリアに見られると恥ずかしいというのもあるが、ミリアリアも見たくもないものを見せられたら、気分が悪いだろうからな。
これはこれから共同生活をおくる上で求められる、最低限の気づかいだ。
そしてこれは、風呂に一番乗りした時から計算していた行動だった。
俺がいなくなれば、あとはサファイアと2人、女の子だけとなる。
ミリアリアも気を楽にしてお風呂に入れるはずだ。
オペレーション・エンジェルの一環とはいえ、ミリアリアにこれ以上、過度な負担をかけさせるわけにはいかないからな。
論理矛盾もなく、とても自然な流れを装った、実にエレガントな脱出作戦だった。
俺はイージスの誇るエージェント、カケル・ムラサメ。
この程度の作戦立案はお手の物だ。
「ママと、むらさめと、おふろしたいな……」
しかしサファイアは小さくつぶやくと、俺を悲しそうな目で見つめてくる。
「うぐ……っ」
さっきまであんなに楽しそうだったのに、目がうるうるしちゃっているぞ!?
「むらさめ……いっしょ……」
「ええっと……」
「いっしょ……」
「や、やっぱりもうちょっと入っていようかなぁ?」
「だよね!」
というわけで、俺の完璧な脱出作戦は、サファイアのうるうる瞳によっていとも簡単に阻止された。
やるなサファイア。
イージスの強襲攻撃部隊の隊長である俺を、こうも簡単にやりこめるとは、将来が楽しみだよ。
「それでは失礼します」
俺とサファイアがいるお風呂にミリアリアが入ってくる。
俺の側の足を先に入れたので、ミリアリアの腰というかなんというか、女の子の大事なところは見えずに済んだ。
さすがミリアリア、配慮の行き届いた奥ゆかしい女の子だね。
「ママ、ぎゅーして?」
サファイアが早速ミリアリアに抱き着くと、胸に顔をうずめた。
「もぅ、サファイアは甘えんぼさんね」
「ずっと、ママに、あまえたかった、から」
「うん、そうだよね。甘えたかったよね。これからはいっぱいママに甘えてね」
ミリアリアは一瞬辛そうな顔を見せた後、すぐに慈愛に満ちた顔になると、抱きしめたサファイアの頭をそっと優しく撫で始める。
「えへへ、きもちいい……ママ、すき……」
「ママもサファイアのことが好きよ」
ぽわぽわっと嬉しそうにつぶやくサファイアを、ミリアリアは優しく撫で続けた。
しばらくすると、
「むらさめも、こっち! 3にんで、ぎゅー、しよ?」
ミリアリアの胸に顔をうずめていたサファイアが、肩越しに振り返って俺を見る。
しかし俺は、
「ははっ、さすがに3人だと狭いからな。俺は見ているだけでいいよ」
という言い訳を既に準備してあった。
考える時間は十分にあったからな。
常に状況を精査・分析し、次の手を用意しておく。
刻々と状況が変わる最前線で身体を張るイージスのエージェントには、必須の能力である。
「うーん……そうだ! ねえ、ママ。こしょこしょこしょ……ってのは、どうかな?」
サファイアがミリアリアに耳打ちをした。
「ふふっ、それはいい考えですね」
「でしょ!」
そんな会話を終えると、唐突にミリアリアが立ち上がった。
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