第16話「ぶくぶく……じゃんぷ!」

 そんなことを考えている間に、サファイアは頭だけではなく身体も洗い終えると、


「おふろ! ざぶん!」

 勢いよく湯船にザブンと入ってきた。


 しかし勢いあまって頭まで全部、お湯の中へと突っ込んでしまって、


「わぷっ! わぷっ!」


 慌てて顔を出すと、( >Д<;)な顔をしながら、顔をびっしょりと濡らすお湯をぬぐっている。


「ははっ、サファイアは元気いっぱいだな」

「こーらー、サファイア。お風呂に飛び込んじゃ駄目でしょ」


 サファイアの面倒を見終え、今度は自分の髪を洗い始めたミリアリアがサファイアの行動を注意する。


 反射的に視線を向けると、

「――っ!」

 ミリアリアの豊かな膨らみが横からもろに見えてしまった。


 いわゆる横乳だ。


 しかも髪を洗うために両手を上げているせいで、かなり際どいところまで見えてしまう、

(それでも妙に白く濃い湯気のせいで、先っぽの本当にまずいところは見えなかった)


 ゴクリと、思わず見とれそうになったところで、髪を洗いながらこっちを見ていたミリアリアと視線がバシッとぶつかってしまっていることに気付く。


「ご、ごめん」


 俺は光の速さもかくやという勢いで顔を反対に向けた。


「もぅ、カケルパパはしょうがないんですから……」


 これはマズい。

 任務をいいことに、エロいことを企むスケベ上司だと思われたかもしれない。


 いや、思われたも何も、この瞬間を切り取ればまさにその通りなんで、言い訳すらできないのだが。


 だけど俺は今の今まで、見ないように自制していたんだぞ?

 今のは声につられて、つい反射的に視線を向けてしまっただけなんだ。

 悪気もスケベ心もまったく――――おおむね99%はなかったんだ。


 いやもう、ほんとただの言い訳です、すみません。

 さすがにこれは恥の上塗りにしかならないんで、とても口には出せない。

 心の中にしまっておこう。


「はーい!」

 俺の心の葛藤など知らずに、元気よくミリアリアに返事をするサファイア。


「まぁまぁ、今日くらいはいいんじゃないか? はしゃぎたい気持ちも分かるよ」


 そしてサファイアの話をすることで話題逸らしをして誤魔化す俺。


「もぅ、カケルパパは子供に甘いんだから。ま、そこがいいところなんですけどね」


 そんな会話をしていると、


「よいしょ」


 サファイアが俺の足の間に入ってきた。

 そして俺に背を向けてもたれかかると、アヒルのプカプカで遊び始める。


「ぶくぶく……じゃんぷ! ぶくぶく……じゃんぷ! ぶくぶく……じゃんぷ!」


 サファイアはアヒルのプカプカを水の中に沈めては、手を離してアヒルが勢いよく水面に出てくる、というのを何度も繰り返していた。


 そうそう。

 子供って、何かに夢中になるとひたすらそれを繰り返すことがあるよな。


 さてと。

 せっかくだから、もっと楽しくなるように俺も少し手を貸してあげるか。


 俺は水面に、両手の人差し指と親指で輪っかを作った。


「サファイア、アヒルさんをこの輪っかの中に通せるか?」


「やってみる! ぶくぶく……じゃんぷ! ぁ……」

 サファイアはさっきと同じようにアヒルをお湯の中に沈めると、その手を離す。

 しかしアヒルは水中から斜めに飛び出し、輪っかを外れてしまった。


「うーん、惜しかったな。ちょっとだけ外れちゃったな」

「も、もういっかい! もういっかい、やる! だから、て、そのまま!」


 サファイアが肩越しに俺を振り返って、必死な顔でリトライを要求する。


「もちろんいいぞ。何回でもやろうな」

「むっ! つぎで、きめるもん!」

「いいぞ、その粋だ」


「よくねらって……よくねらって。ぶくぶく……じゃんぷ! あ……も、もういっかい!」

「おうよ」


「ぶくぶく……じゃんぷ! ぶくぶく……じゃんぷ! もういっかい! もういっかい!」


 その後、何度かトライを重ねて、


「ぶくぶく……じゃんぷ! やった! やりました!」

 ついにサファイアのプカプカアヒルは、輪っかをくぐり抜けることに成功した。

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