普通の実証。

木田りも

普通の実証。

小説。 普通の実証。


・前書き

 この話はただの僕の告白です。

何か自伝のようなものです。小説なんて大袈裟なことは言えないけど、こんな小説があったって良いのではないかと思って小説にしました。




はじまり。



 うまくいかないものはうまくいかない。

そんなことはわかっているのだ。ずっと待っていた。ずっと暗い夢を見ていた。ずっと不幸になろうとしていた。あなたがいないところに幸せを感じないように、あなたがいなければ幸せを感じないようにしていた。普通とは何かずっと模索している。今も探し続けてる。1人1人オリジナルな世界なのに普通という矛盾したものをきっと探し続ける。頭の中では分かっていても納得するまで時間がかかる。完璧主義は今でも治らない。不可能を認めたくない。そんなことを考えながら今日も普通を探す。


 頭の中に山崎まさよしのワンモアタイムワンモアチャンスが流れている。きっといつでも探しているんだと思う。不確かな毎日は、太陽の動きで過ぎ去っていき、陽が沈んでいくと同時に僕たちも終わる。世の中の好きなフレーズとか、発明とかそういったものってどんなふうに生まれてくるのか。0→1ってどうやって生み出してたっけって、かなり長い時間悩みながら、文章を紡ぐ。もう書くものなんて無いし満足したって思っても、頭の中のアイデア欲というか、脳汁というかそういった自分自身を活性化させるものが躍動して今日も奮い立たせるのだ。きっとまだこうしていたいし、変わらないものを望んでたりするのだと思う。


 旅行の約束をした。僕たちはいつかどこかに一緒に行く。そう思ったらわくわくしてくる。人生が明るくなるし、いろんなことを考える。何を食べようか、何を着ていこうか、向こうで何をしようか、美味しいお酒が飲めたら良いなぁとか。1人で微笑んでしまうくらいには、嬉しくなってしまっている。あと少し、もう少し。次の駅まで。


 知り合いに似た人とすれ違った。夢の中で来たところに来た。正しいことをしてるのに上手くいってほしいことほど上手くいかない。地下鉄で途中まで一緒に帰る。さっきまで一緒に歩いてた道を1人で帰る。その寂しさたるや。そこにいたいって思える場所にいることのできないもどかしさ。過ぎ去ってしまう時間。終わらないでほしい関係。飲み会で1人、みんなより4つ前の駅で降りる。手を振り見送る瞬間の寂しさ。明日また会おうという不確かさ。


 まだ起こってない時間を待つのは幸福である。それと同時に、まだ起こってない時間を待つのは苦痛である。起きてしまえば終わるものが、起きる前はとても不安になる。起きるのだろうか、起きられるのだろうか。鬱憤たちがずっとこちらを見ていて、いつか不器用という敵が仲間になって今まで背負ってきたコンプレックスが自信になるまで生温かく、見守ってて欲しい。見守っててください。


 買いたいジュースはずっと売り切れのまま。売れて欲しい商品はいつも売れ残ったまま。起こってほしい事象は、いつもどこかを向いたまま。話したい人は話せないまま。何かを待っていて、待ち続けていて、そのうち何を待っていたのかわからなくなって、慢性的な憂鬱が蔓延り続けている。何から手をつけていけば良いのだろう。何から話せば良いのだろう。


 今日の夜はケンタッキーだよってLINEで送っているどこかのお父さんの隣で今日もおにぎりをお腹に詰め込む社会人3年目のまだ何者でもない男。まだ家に帰れないからとりあえずお腹を満たす行為。食事ではない。


 長いトンネルに入る。暗い世界。抜けても抜けても終わらず。この様子ではきっと終点も暗いのだろう。外は、蛍光灯を使って人工的に明るくした世界が広がる。自然はきっともっと暗い。敵わないものとかそういったものを目の前にした時ほど人間は無力だ。


 静かに両目を抑える。涙が出てこないように。暗いのだから涙を隠す理由もないのに。まだ起こっていないことが起きる前に起こるはずだったことがなくなってゆく。会いたい人に会えないまま、付き合いだとか、馴れ合いだとか、そういう合いのために時間を費やしてるのだ。普通の人間になるための訓練だろうか。この後に及んでも、普通を目指そうとするのは何故なのだろうか。目立ちたくないのに演技をするのは何故なのだろうか。関わりたくないのに付き合いを続けるのは何故なのか。そういった意味も含んだ断捨離を行なった。また0から。1に戻るわけではなく0にしたい。消えてしまいたいのかも。いつのまにか0→1になろうとしてた僕と矛盾が生じていて自分の中に違和感というものが生まれた。そしてそれがずっと重くのしかかっていて得体の知れない不吉な塊になった。爽やかなものとは程遠い重い無機質な何か。


 最近、階段の登り降りが怖い。人と視線が合うのが怖い。人間らしくいることが怖くなってきた。自分の行動がちょっとした意味のない行動が誰かに影響を及ぼすのが怖くなってきた。その思いとは裏腹に、エレベーターではなく階段を使い、話を聞くときに目を合わせ、苦手に立ち向かってる自分を必死に作っている。苦手なものがある、弱気な人は狙われやすいからだ。人と違うものを笑わないといけない。僕は多くの人と同じようにリアクションをして、アクションをする。趣味を合わせ人と同じものを飲み、食べ、美味しいと言い、別れる時には少し寂しそうな顔をしながら手を振る。気持ちがわからないまま、流行りの歌を聞き、TikTokをダウンロードし、最近流行りのものを知る。仮面を何枚も何枚も被り、本当の顔を忘れ始めた頃、友人に『我がない人間』と言われた。エレベーターはいつも自分がボタンを押してからこちらにやって来る。この無駄な待ち時間を僕は今日も過ごす。


 今までの行為全てが間違いのような気がして、例えばLINEの友達でもうあまり話してない人などを非表示にしたりした。それすらもまだ途中だ。何も変わらない。何も終わらない。もう消えてしまおうか。なんてそんな時に身体が動いた。


 気がつくと泣いていた。あの時のフレーズ。2年前の激動の記憶が思い浮かんだ。必死で生きて関係を築き、作り、自分が過ごしやすい環境を作るために必死こいて生きていた頃。周りのことなんて考えてられなかった。そんな頃を思い出した。人生が変わる瞬間は色々なところに実は転がっていて、立ち話だったり、何気なく話した顔も名前も知らない人だったりそういった人が持っていたりするものだ。気がつくと泣いていて周りを気にする僕が無意識に涙を隠さず鼻を啜り、見入っていた。夢中になって観ていた。拍手が、お芝居の後のダブルカーテンコールが。アメリカならスタンディングオベーションだろう。そこには普通があって、普通なんてなかったのだ。いや、「普通に生きている」ということが最も普通ではないのだ。たまたま生きることが出来ていて、たまたま色んな人と繋がりが出来ている。毎日は奇跡の連続で続いていて、マンネリ化してしまう毎日でさえ、本当はとっても素晴らしくて愛おしいものなのだと思うのだ。言葉で文字で表現してしまうと稚拙になってしまうのだが、これ以上の賛辞が見つからないほど、人生が変わったのだ。


 これは、変わる前の最後の断捨離とでも言おうか。ずいぶんと軽くなった。身も心も身軽になったからこそ見えてきたものがある。混線して絡まっていた脳内が少しだけ解けた。解くは解と書くのかといま予測変換から出してきて感動している。解けてきた。溜め込んで溜め込んで、ほこりみたいに溜まってしまって、何年も掃除できていなかったことをやっと腑に落とすことが出来た。受け入れられないことを受け入れてみようとして、それがうまくいかないから浄化していくことが出来てきた。一歩ずつ、一歩ずつ歩いているうちに偽物かもしれない光も見えてきた。光は光なのだからそれで良いのだ。何度も自問自答した結果、自分で作った光かもしれない。勝手に光っていて、でもそれで良いのだ。普通なんてないのだから。


 長いトンネルを抜けると、季節は変わる。花の色に、香りに染まった世界が開けている。つらいことも嫌なこともごちゃ混ぜに溢れてる世界で、ねじ曲がった知恵の輪をほどくように、解くように。


 たぶんこんなふうにダラダラと御託を並べているけれど、本当はただ世界が、もっと単純で優しくて、みんな違ってみんないいって思えるようになったらいいなって思うだけだ。


 最終的な結論は、これからも君のことを愛しているのだ。叶わない想いだとしてもいい。僕はきっとこれからも不器用に、


あなたが好きです。










おわり。




あとがき。


僕は同じ音楽を何度も聞く習性がある。

安心したり、同じように盛り上がりたいからだと思うが、新鮮さというか初めて聞いた時の高揚感みたいなものは次第に失われていくし、良い曲だったはずなのに飽きが来てしまう。でも聞くのを辞められない。そんな感じなものが人生にも、この短い人生にも続いているって思ってた。しかし、面白いもので、今までとは違う聞き方(例えばこのフレーズはどんな思いで誰に向けて書いたのか、なぜこのように感情を込めて、また逆に感情を出さないで歌うのか)をしてみると、同じ曲が違う曲になったりする。今まで自分が勝手に作った当たり前は、他者の話などで、簡単に崩すことができることに気がついた。今の自分に必要なのは変わることではなく気づくことだって思った。変わろうと頑張っていたがこれまで培ってきた持っているものを振り返って、大事にしていこうと思えた。そのきっかけは、自分の断捨離と他者の価値観の話しをリアルな耳で対面で腹を割って話せたからだと思う。どんな有名人の素晴らしい言葉よりも心の奥まで響いたので、これからも忘れないように生きていきたいと思う。


ご覧いただきありがとうございます。

良ければまた読んでください。

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