三話 盗まれたカレイド・リング その弐
「はぁ〜あ。祭華ちゃん、頭撫でて」
「はいはい。なんであんな大事なもの失くすかなこの変態ポンコツ妖精気取りクソ野郎は」
「ねえもっと優しくしてよ!」
「注文多いな! 失くしたのお前なんだから偉そうに言うな!」
「私失くしてない! きっと誰かが盗んだんだよ!」
「言い訳するな! お前は失くしたんだ! 私の大事な変身アイテムを!」
翌日。登校中にそう言い合いをする。
失くしたのは自分のくせに、なんて生意気なやつなんだ。放って一人で登校しよう。
「祭華ちゃん怒らないで〜。私祭華ちゃんがいないと死んじゃう〜」
するとフォミラは勢いよく抱きついてきた。もう離さんとばかりに。
「ああもう! 怒ってないから!」
「ほんと? じゃあ今日は私と寝てくれる?」
「別に、失くしたから一緒に寝ないわけじゃないんだけど……」
あのエロ本の山見たらさ、一緒に寝たくなくなるでしょ。
「おはよう祭華」
私がむぎゅむぎゅ抱きついてくるフォミラをあしらっていると、いつもよりも遅い登場をする綴。
「あ! おざす! ボス!」
「おはようクズ」
なんて捻りもない純粋で爽やかな悪口。
ガニ股でヤのつく職業の人がしてそうな仁義的挨拶をしてるフォミラが、悲しく見えてくる。
私が、でもなぜ仁義切り? と疑問を持っていると、フォミラは股を閉め身体を縮込めはじめた。
「ふぅ。さすがボス。私の性癖を歪ませてくれる」
「あ、それ興奮してたんだ」
どうやらフォミラの性癖は無限大らしい。
余計一緒に寝るのが嫌になった。
「そういえば、変身アイテムは見つかった?」
私がまたまた抱きついてくる性癖多き変態、フォミラをあしらっていると、もう一人の単一性癖の変態がそう訊ねてくる。
「いいや? 結局見つけられなかったんだよね。だから敵が来たらどうしようかな〜って」
「…………敵が、来る?」
「うん。昨日も一昨日も来たし、今日も来てもおかしくない気がするんだよね」
そういえば、昨日も一昨日も登校中に来たっけか。おまけにここの公園だったし。
…………あれ? てことは、もしかして今日も来るんじゃ。
「おい! そこのお前ら!」
げっ。噂をすれば、人の声が。
私は恐る恐る声がする方へと目をやる。
そこには、派手な格好と豊満な筋肉を持ち合わせた男が立っていた。
その男を見て、私は安堵する。
よかった。サンバの人じゃない。てことはただ道を聞きたいだけか。
「えっと……どうかしましたか?」
「祭華に近づくな。殺す」
「なあ、ここら辺に魔法少女が出たって話を聞いたんだが、どこにいるのか知らないか?」
綴の罵声をフル無視して訊いてくる男。
て、そんなことよりも聞き捨てならない言葉を男が放った気がするのは私だけ? ほら、なんか、魔法少女を探してる的なことを言ってたような。
「魔法少女なら今日は店閉まいだよ」
特に何も余計なことを耳に入れなかったかのようにフォミラが男に返す。
「なぜだ! なぜ今日は魔法少女がいないんだ!」
「それがね、変身アイテムを失くしちゃったんだよね。これも敵の策略か」
お前が失くしただけだろ。
「そうか。じゃあ今日は魔法少女は来ないのか」
男は中々聞き分けがいいらしく、はぁと一つため息をついて諦めたような雰囲気を出す。
お、何がともあれ今日は何もなくて済むかも?
「しょうがない。とりあえずグランボットだけばら撒いて帰るか」
私のちょっとした喜びは、一瞬にして消え去った。
え、待ってちょっと。グランボットって言ったよね。
私の疑問なんてものは届かず、昨日同様また妙な球体から現れる雑魚ロボことグランボット。
『『『イーッ!』』』
「教えてくれてありがとな。はぁ、今度は戦えるといいんだけどな〜」
そう言いつつ、頭を掻きながら空へと消えていく男。
…………。なんちゅう置き土産だ。
私は変身できないし、こうなったらフォミラの四次元ポシェットを頼るしかない。
「ねえ、フォミラ」
「どうしたの? 祭華ちゃん」
冷や汗をだらだらと垂らして訊ねてくるフォミラに対して、私は満面の笑みで言い放った。
「ひみつ道具、出して」
「…………そんなあなたに朗報があるんだけど」
「そう。悪い知らせだったら殺すね」
「………………」
しばしの沈黙。
「えっと、その……ひみつ道具はね、そのね、あの…………」
あたふたと冷や汗を垂れ流すフォミラ。
ちょっと怖がらせちゃったかな。
私は安心させるべく、フォミラの肩に優しく手を置いた。
「大丈夫。もうはじまっちゃった戦いだしさ、今さらフォミラに怒ったってしょうがないじゃん」
とびきりのウィンクをかます。
私のかわいいウィンク。それを目にして安心しきったフォミラは、一呼吸置いてから満面の笑みでこう言い放った。
「ひみつ道具はあるんだけどね、実は今夜祭華ちゃんに使う用のエロクナ〜ルしか持ってないの!」
「綴、殺っちゃっていいよ」
「この時を……待ってた(ボギッボギボギッ)」
「嘘つき」
その時のフォミラの眼は、完全に死んだ魚の眼をしていた。これから死ぬのに。
瞳だけ先に逝ったらしい。
「で、このグランボットたちどうする? 綴」
「今はもう動かないフォミラを武器に戦うしかない」
「それもそうだね。じゃあ綴、私を守って」
そう言って、綴の背中に抱きついた。
綴のお腹の下辺りからきゅんって音がしたような気がするけど、気にしないでおこう。
「わかった。わたし、戦う」
キリッとした瞳で綴はグランボットの前に立ちはだかる。コマンドーのようにマシンガンではなく、フォミラを肩に担いで。
『『『イーッ!』』』
「祭華からのお願いは、聞くしかない」
迫り来るグランボットたち。それをフォミラをぶんぶんと振り回すことで跳ね除ける。
その姿は、いたいけな少女を守るヒーローのようだった。
こうして見ると、綴って顔も良いし強いし戦う姿もイケメンだし、結構イケてるんじゃ。
普通の女の子なら惚れてもおかしくないキャラだよね。
「ふっふふふふふ……。全員殺して、祭華と念願の結婚生活。イチャラブえっち、タグは愛のあるセッ○ス」
やっぱりこいつに惚れるとかどうかしてる。
「……あれ? 私いつの間にか命綱無しジェットコースターに放り込まれてるの? しかもボケててよくわからないけど、たぶん私が薙ぎ倒していってるのグランボットだよね?」
目覚めたフォミラは、明確に今の自分がどうなるっているのかを分析しはじめる。分析っていうか、なんというか……。
「あ、起きちゃった。死ね」
「えっ!? むごっ」
グランボットを殴り飛ばしつつ、合間にフォミラの首筋に一撃を加えてまた気絶させた。
さすが綴。もう匠の技としか言いようがない。
「てぇ! そう簡単に私は死なないわ!」
けど匠もフォミラの気合には勝てなかったらしく、今までがっしりと掴んでいたフォミラの両足を手放してしまった。
瞬間、地面にスタっと着地するフォミラ。
『イーッ!』
そのタイミングを見計らったかのように向かってきたグランボットの軍団を、分厚いエロ本で殴り飛ばした。
エロ本ってこんな使い道があったんだ。
「まさかわたしの手刀が効かないとは」
立ち上がったフォミラに驚愕の声を上げる綴。
確かに、あんなぶんぶん振り回されて硬いロボットにぶつけられまくったのによく生きてるな。普通の人間だったら絶対死んでる。
「綴ちゃん酷いよ! か弱い乙女を武器に使うなんて!」
「か弱かったらとっくに死んでる。わたしは、お前を信頼してたから武器として使った」
「…………え? そ、そんなこと言われちゃ、照れちゃうよ」
「だからもう一度」
「へぁ? ちょっとまがぶっ!」
さすが匠綴。落として上げて殺した。
「これで邪魔な存在は消え去った。祭華、わたしと一緒に……」
そう近づいてくる綴。その途中でぽろっと、何かが落ちる音がした。
「ってて……あれ? 綴ちゃんなんか落としてって……え? これ」
「…………まずい」
フォミラが手にしたそれは紛れもない、私の変身アイテム、カレイド・リングだった。
「え? ちょっと待って。てことはずっと綴ちゃんがこれを持ってたってこと?」
「…………」
俯き沈黙を貫く綴。
そんな綴の瞳を、私は見上げる。そしてかけた言葉は。
「嘘つき」
これだった。
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