五話 茜、部活作るってよ その弐
それから数分。
茜先輩はバシッと制服を整えて、堕とそうな生徒を探していた。あ、見つけたっぽい。
三つ編みメガネのいかにも図書委員やってそうな女の子をターゲットに、茜先輩は勇ましく歩みを進める。
そして彼女を校舎裏の壁まで追い詰め、ドンっ。
壁ドンで逃げ場をなくしてから、こう言い放った。
「なあ、あたし結構イケメンだと思うんだ」
あ、自分で言っちゃうんだ。
「え……あ、うん、ソウデスネー」
「ならさ、あたしとこれから行かないか?」
「行くって、どこに?」
「ひ•み・つ♡」
「さよなら」
爽やかウィンクはフル無視され、メガネさんは足早に去っていった。
「さすが茜先輩。身を挺して悪い例を見せてくれるなんて」
「ブッブー。これでは、いけませんね」
「…………お、おう。だろ? この失敗を踏まえて、次は誰がナンパをするんだ?」
え? ナンパ?
部への勧誘がいつの間にかナンパにチェンジした?
「じゃあ次は祭華ちゃんだね」
フォミラが両肩に手を置いて言う。
「いや、こいつはダメだ」
私の疑問形は無視されながら話は進むし、なぜか否定されてるんだけど。
「どうして?」
「こいつはイケメンじゃないからだ。適任なのは綴だろう」
先輩のイケメン判定どうなってんの?
「興味ないね」
綴は長い髪を翻して断る。
「じゃあフォミラ、お前だ」
「えー。私は祭華ちゃんがいいと思うけどなー」
「こいつはなー……」
私の方に目をやり、「う〜ん」と声を唸らせる茜先輩。
失礼なやつだな。確かにイケメンではないかもしれないけど、私は美少女なんだから。
そう思っていると、先輩は私の頬をぐにゅぐにゅと揉みはじめた。
ぐにゅぐにゅ、ぐにゅぐにゅ……。大きいけど柔らかい手のひらが、私の顔を変形させそうなほどに揉みまくる。
そしてひとしきり揉み終えたあと、先輩は満足そうな顔をして私から手を離した。
「よし、任せてみるか」
「良かったね祭華ちゃん」
「別に、私はナンパしたいわけじゃないけど……」
そうこう言いつつも、しょうがないので校門へと足を向ける。
「祭華待って! わたし以外の女をナンパするなんて許さない!」
「綴。お前もあたしたちと見守ろう。祭華の勇姿を」
「くたばれ! お前にかまってる暇はない!」
…………。私がナンパしに行くだけで、なんでこう騒がしくできるんだろう。
頭をかかえながらも、校門をちょっと出た辺りで部員になってくれそうな人を探す。て言っても、特に何かするわけでもない謎部に入ってくれる人なんていないと思うけど。
「ねえ、あなたこの学校の娘?」
キョロキョロと辺りを見渡していると、後ろからそんな声が聞こえた。
「……え、えっと、そうですけど」
最近百発百中と巷で噂の私の勘が告げている。嫌な予感だと。
「やっぱりそうなのー? 私ここの関係者なんだけどね、道に迷っちゃったから、案内してほしいなーって…………」
明らかに嘘っぽい言葉を滔々と並べるお姉さん。その時、ようやく私は自分が何をされているのかを気づいた。
これ、ナンパだ。
なんでナンパしに来たのにナンパされてるんだろう、私。
「お願い。ちょっとだけだから。先っちょだけ」
「先っちょだけと言われましても……」
ぐいぐいくるお姉さんに圧倒されていると、後ろからとちょいちょいっとお姉さんの服を引っ張るフォミラ。どうやら助けにきたらしい。
こいつも最初ナンパしてきたくせに。とは思いつつ、助けにきてくれたのはすっごい嬉しかった私だった。
いつもはあんな変態でも、やる時はやってくれるんだなって。
正直見直した。
「お姉さん、この娘よりも私と遊ばない? 私もピチピチの高校一年生なんだけど」
ナンパ返ししに来ただけじゃねえか!
助けだと期待して損したよマジで!
ちょっと残念だと思いつつ、二人が戦ってる場所に戻ろうとすると、フォミラが私にアイコンタクトを取ってきた。
『ここは任せて、先に行って!』
顔のいいお姉さんを見つけられて大興奮のフォミラ。その自信満々で満面の笑みに、どこか強いイラつきを覚えた。
なんかフォミラが他の女ナンパしてるのを見てるのは、面白くない。
「ごめんお姉さん、私たちもう行くから」
「へ!? あ、ちょ、待って! お姉さん、今度お茶でもしましょー!」
フォミラの大きな手をずるずると引っ張る。
『…………良いもの見れたし、いっか』
お姉さんの言ったその言葉の意味は、私には全くもって理解できなかった。
★★★
結局、あたしの立てたナンパ作戦は失敗に終わった。やっぱりあの時綴に行かせるべきだったか。
そのあとも美兎にブチギレられるまで綴はメンチ切ってきたし、祭華とフォミラは相変わらずイチャついてるし、ほんとにあいつら部活作る気あるのか?
そんな文句をぶつくさと考えているうちに、家に着いていた。
「お姉ちゃんおかえり〜」
リビングに入ると、ソファに寝そべりながら気力の無さそうに言ってくる。
「ただいま」と返して、妹が寝そべっているソファの前に陣取った。
「邪魔くせ〜」
小言が聞こえるが、そんなのは気にしない。うちの妹は祭華レベルのバカだ。こいつの言ってることなんて、八割型聞き流すのがうまい姉妹の付き合い方だろう。
と思いつつ、ゲーム機の電源をつけた。
さて、今日はどの娘を攻略しようか。無難に風紀委員の身体淫乱メガネジャッジメントにでもするかな。
「そういえばお姉ちゃん、部活作りはどう?」
「ぐうっ……」
せっかくゲームで忘れかけていた現実に、妹の一言で引き戻された。
「はっ! その顔は図星だな! お姉ちゃんみたいな変人の部活に入ってくれるバカなんていないもんね〜! うきゃきゃきゃきゃきゃ! ざっこ! ざっこ!」
……っ! なんてイラつく笑い声なんだ。
こいつが学校でメスガキって呼ばれてる理由がよくわかる。
わからせてやる!
立ち上がり妹を見下ろして、あたしは言い放った。
「あたしが雑魚なら、お前はバカだ!」
「なんだと!? 喧嘩か? お?」
やってやろうじゃないか! そんな顔つきでジャージの裾をまくりはじめた。それに釣られてあたしも制服のブレザーを脱ぎ捨てた。
「今日はこれで勝負だ!」
そう妹が手に取ったゲームカセットは『大乱戦スマッシュガールズ/X』誰もが知っているぶっ飛ばすタイプの格ゲーだ。
「いいだろう! 姉に勝る妹がいないってことを教えてやる!」
「悲しいけど、そんなことないのよ」
その後、あたしたちの大乱戦はゲームの世界だけには留まらず、戦いの舞台は現実世界へと発展していった。
母さんに止められるまで。
「さあ、どうすればいいものか……」
食事も終え、お風呂に入る。今日の疲れが取れると同時に、不安が頭をよぎった。
妹に煽られてムキになってしまっていたが、あたしに友達が少ないのは本当のことだ。
祭華や綴、フォミラは奇跡的にできた後輩だし、あと一人見つけるのは難しいよな。あいつらもあいつらで友達少なそうだし。
しょうがない。また明日勧誘を続けるか。
そう決意を決め、勢いよく立ち上がった。
「よし、頑張るんだ! 明日のあたし!」
「…………何してんの? お姉ちゃん」
「あ……」
あんまり見られたくないところを、妹に見られてしまった。
隠れるように浴槽へと潜る。
なんでうちの妹はこう間の悪い時に来るんだ。
…………てか、なんでいるんだ?
そんなあたしの疑問形の眼差しに答えるように、妹は口を開いた。
「お湯もったいないからママが入れって」
「そうか」
「てかお姉ちゃん狭い、もっと詰めて」
「ちょ、お前なぁ……」
あたし一人でさえぎゅうぎゅうなのに、こいつまで入ってきたらとんでもないことになるぞ。
けど、いざ入ってみれば、思ったよりも狭くはならなかった。
それは妹があたしの膝の上に乗ったからだ。
いっつもあたしのことをバカにしたりなじったりしてくるくせに、こういう時は甘えてくる。
まあ、そういうところはかわいいと思うんだけどな。
「お姉ちゃんさ、学校楽しい?」
図々しく膝の上に乗ったと思えば、次は申し訳なさそうに俯く。
ほんとなんなんだ、こいつは。
「ああ。かわいい後輩もできたし、楽しいぞ」
「へぇー。ねえ、わたしとどっちがかわいい?」
ぐいっと顔を上げ、上目遣いで訊ねてきた。
その視線に、思わず心を惑わされる。こいつはたまにこういうことをやってくるから油断ができない。
あたしは平常心を装い、口を開いた。
「それは……お前だな」
こいつは生まれてからずっと一緒なんだ。どんなにイラつくことされても、どんなに煽られたとしても、かわいいに決まってる。
「…………そっか」
とだけ返して、妹は下を俯いたまま動かなくなった。
その後お風呂に上がってからも、しばらくはあたしと目を合わせてくれることはなかった。
ほんとになんなんだ。こいつは。
「あらあの娘、もうお風呂上がったの?」
「あたしと一緒に入ったぞ。てか、母さんが一緒に入れって言ったんじゃないの?」
「いいや? 何も言ってないけど」
……うちの妹は、本当にわからない。
☆☆☆
「姉妹百合っていいよね」
先輩によくわからない変な部に入れられた翌日。お昼ご飯の買い出しからの帰り道に、フォミラはそんなことを呟いた。
どうでもいいけど、とりあえず「急に何?」と塩々で返す。
「だって姉妹ってさ、生まれてからず〜っと一緒にいるんだよ? 最高じゃない?」
「わたしも祭華とずっと一緒にいたい。死ぬまで。ずっと」
綴の乱入。そして私の首元にそわそわと息を吹きかけてきた。
「うわっ。綴と姉妹だけは嫌だ」
毎日こんなことされてたらたまったもんじゃない。
毎日されてるけど。
「わたしも祭華と姉妹は嫌だ。結婚できないから」
「あ、理由そこなんだ」
「うん。祭華とはちゃんと籍を入れたい。国にわたしたちは結婚したんだって認めさせてやりたい」
「情熱のこもった良い目標だね」
「私には情欲しかこもってないように見えるんだけど」
抱きついてくる綴を振り払いつつ、教室に入る。すると珍しく先生が私たちが席に着くより先に教卓に陣取っていた。
「あ、先生。どうしたの? まだ五時間目まで時間あるけど」
「ああ。今日はお前らに用があったからな」
「私たちに、用?」
訊き返すフォミラ。
…………。なんだろう。嫌な予感しかしない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます