五話 茜、部活作るってよ その壱

 あたしの名前は常盤茜。スポーツ大好き、曲がったことが許せない熱血系の高校二年生だ。

 て言っても、最近はスポーツよりもやりたいことがある。


 それは、部活作りだ。


 学生生活で青春の大半を捧げる部活。あたしは、新たな部活を作り、そこでできた仲間と楽しく過ごす。それが今のあたしのやりたいことだ。

 まあ、どんな部活かなんてのは適当で、部室でぐうたらできればそれでいいんだけどな。


『おい嬢ちゃん、ぶつかったじゃねえか。謝れよ』

『そーだそーだー』

『ウデガナルゼ〜』

『……えっとー、ごめんなさい?』

『謝って済むと思ってんのか!』

『そーだそーだー』

『アバレルゾ〜』


 どう部活を作ろうかと悩みながら歩く登校中、そんな柄の悪い声が聞こえた。三つも。

 はぁ、朝から何やってるんだか。呆れて何も言えないな。

 曲がったことが嫌い。その証拠、今から見せてやるよ。


『さあおとなしく金寄越しな……』

「おい、あんた」

 あたしは学ラン男の肩に手を置いた。

 あたしより五センチくらい高いから、一八〇はあるな。筋肉は微妙。あたしの敵じゃなさそうだ。

『なんだぁ? テメェ』

 振り向き様に、男はメンチを切ってくる。

「女の子に寄ってたかって金寄越せって、恥ずかしくないのか?」

 だけどあたしはそんなんじゃ怯みはしない。鋭い眼光を相手に向けた。


『ヒィッ……す、すいません。ごめんな、嬢ちゃん。俺たち用があるから帰らねえと……』

「おいおい。いたいけな少女を怖がらせておいて、そんな一言で済まされると思ってるのか? 随分とめでたい頭だな」

 あたしの瞳に怯み、逃げ出そうとする男を引っ捕える。さて、昨日はよくわからないロボット軍団と戦って楽しかったが、今日の相手はいかがなものかな。

 ゴキっと腕を鳴らす。


『ひえええ! お待ちを……て逃げるなお前ら! 俺を助けろ! それかお前らもこいつに殴られろ!』

『イヤダイヤダー!』

『ゴリン終、ダナ』

「安心しろ。他の二人もお前の後で葬ってやるから」

 けど、まずはお前からだな。

「目を潰して歯を食いしばれ」

 それから、あたしがこのチンピラどもを二度とこんなことができないような身体にしてやったことは、言うまでもないか。


「これが、わたくしの探し求めていた王子様……」


 後ろで、恋する乙女のような声が聞こえた気がした。


          ☆☆☆


 とある日の放課後。ホームルームも終わり、ようやく帰れると帰宅の準備をしていた矢先に。

「ねえ祭華ちゃんお願い。着いてきて」

「やだ。めんどくさい」

「そう言わないで着いてきてよ〜」

 私にすがりついてくるフォミラ。


 フォミラは日直で、学級日誌を職員室にいる先生まで届けなければいけないということらしい。

 職員室なんて嫌だ。本当は嫌なんだけど、しょうがない。


「行く。行くから、スカートひらひらさせるな!」


「はーい」

 そう言うと、フォミラは私のスカートから手を離した。

 自分の望みが叶わないだけで人のスカートを捲るなんて、とんでもないやつだ。

「…………で、綴、お前は何してんの?」

「白。純白の色」

 見たんだな。私のスカートの中身。


 それから数分。

 三人で職員室到着。けど、どうやら先着がいたらしい。

「失礼します……」

「あ、茜先輩!」

 フォミラが言う。

 そう、昨日私をぶん殴って、無理やりバドミントンをさせた先輩、茜先輩がそこにはいたのだ。


「フォミラに祭華、綴じゃないか」

「そうだよ〜。先輩何してたの? もしかしてバカだから呼び出されたとか? それとも喧嘩?」

「お前、あたしをなんだと思ってるんだ」

「平成初期の不良」

「…………地味にショックだな」

 そんな感じに一会話終わらせてから職員室へと入っていくフォミラ。


 確かに先輩って平成初期のヤンキーみたい。ぶっちゃけはっちゃけ拳で語り合おうぜとか言いそうだし。

「で、結局何してたの?」

 珍しく綴が口を開いた。私以外とは極力会話しないみたいなスタイルの綴が。

「それはな……。いや、あとで話す」

 先輩は何か閃いたような顔で言った。

 なんなんだろう。そう言われると余計気になる。

「戻って来たよ〜」

「よし、場所を変えよう」

 フォミラが戻ってきたと思ったら、私たちにおかえりすら言う隙を与えずに先輩は足早にこの場を立ち去った。


『どうする? やっぱり話聞くのやめる?』綴にアイコンタクト。

『わたしも帰りたい』と綴もアイコンタクト。

『え〜。行こうよ、茜先輩なら絶対的楽しいって』と幼馴染みの間に割り込んでアイコンタクトをしてくるフォミラ。

「ほら、目ぱちくりやってないで早く行くぞ」

「はーい」

「「…………はい」」

 結局、私と綴の脱出計画は失敗。茜先輩に着いていくことになった。

 何かまた嫌な予感がするのは私だけなのだろうか。設定的には、私脱変人を目指す一般的な高校一年生のはずなんだけど……。

 どうして、こんな変なことにしか巻き込まれないんだろう。


 そうして私たち四人がやってきた場所は屋上。青空がよく見えるし、古くてもう使えない椅子や机がそこに放置されている。

 青春と言えばって感じの場所で、私もここに来るのは結構憧れてた。

 さすが先輩。なかなかいい場所取っくれる。

「あぁ、ちなみにここに来てるのバレたら大変なことになるから、他言厳禁で頼むぞ」

「共犯」

「なかなかズルいね先輩」

 逃げ場をなくしやがったなこいつ。これで話聞くしかなくなったじゃん。


「てかなんで立ち入り禁止なのに開いてるの?」

 もう逃げられないことを悟ったので、気になったことをそのまま口にする。

「あぁ、それはあたしがこの間授業をサボりたくて鍵を壊したんだ。まだバレてないから、お前らも授業サボりたくなったら来るといいぞ」

 不良だ……。屋上で授業サボり。まごうことなき平成初期の不良だ……。


「まあそれはいいんだ。本題に入ろう」

 そう言うと、先輩は一呼吸置いてから、こう言い放った。

「なあ、お前ら、あたしと一緒に部活を作らないか?」

「嫌だ」

「え!? 楽しそう!?」

「思ったよりまともだ……」

 三者三様の反応をする。

 即拒否する綴。やる気満々興味津々のフォミラ。そして、私はあの茜先輩から結構まともな話が出てきたことが以外といった反応をする。


「祭華、お前とは今度みっちり話合う必要がありそうだな。もちろん拳で」

「綴を召喚。あとは任せた」

「御意」

「…………絶対制裁を喰らわせてやる」

 冗談のつもりだったのに。意志が固くなっちゃったじゃん。

「でも、なんで今になって部活作り?」

 私が綴の背に撤退していると、フォミラが話を進めるために訊ねる。すると先輩は軽い勢いで口を開いた。

「それはだな、この間妹の勧めで『アイライブアイドル!』っていうアニメを観たんだ。そのアニメは主人公たちがアイドル部を作って大会に出るって話なんだけどな……。それに、憧れてしまったんだ」

「なんて軽い理由なんだ」

 思わずそう呟きが漏れてしまった。

 部活やったことない私ですら、部活ナメてんのかって言いたくなるくらい軽い。


「あたしはそんな生半可な気持ちで部活作りをはじめたいんじゃない!」

 私の呟きに対して、大音量とビンタで反応してくる茜先輩。

「あだっ!」

 いた! なんだこいつ!

「あたしは部活を作るために関東大会まで行ったバドミントン部を辞めたんだ!」

「なんて軽い理由で辞めてるんだ」

 バドミントン部の仲間たちに謝れ。あと私にも謝れ。

「結局どんな部活なの? 未来を全て棒に振ってでもやりたい部活って」

 私がビンタされたのを見向きもせず、綴が訊ねる。


 確かに。アイドルやるとか、新たなスポーツを作り出すとか、そういうちゃんとしたスポ根ものがはじまるかもしれない。

 まだ希望はある。と頬をさすりながら、私は先輩を信じてみることにした。


「適当に部室使ってぐうたらできたらそれでいい」


 言葉を失う。ついでに希望も失った。

 そんな私たちの絶望が伝わったのか、弁明するかのように、先輩は身振り手振りで私たちへの説得をはじめる。

「いや待て。よく考えてみろ。部室で仲間たちとだらだら突拍子もないボケとツッコミ。テストの時には必死こいて勉強をして、文化祭では謎の出し物。まさにきらら的な夢だろ?」

「…………確かに! それいい!」

「私も結構いい気がしてきた」

 途絶えたと思っていた希望は、案外目の前にある。

 私とフォミラは、先輩の完璧な説得に頷かされていた。

 きらら的な夢、きらら的な青春。その言葉に、私は心を突き動かされた。


「だろ? だからあたしを手伝ってくれよ。あと一人、あと一人部員が足りないんだよ」

「うんうん。私やりたい!」

「私も」

 フォミラに便乗。

 部室でぐうたら。テストの時は部室で勉強。文化祭には謎の出し物を用意。これだよこれ。私が求めてた普通の学校生活って。アニメとかで見てきた当たり前が、今ここで現実になろうとしている。


「よし、お前らも手伝ってくれるなら百人力だ。なんせあと部員は一人で揃うんだからな」

 …………今聞き捨てならない言葉が聞こえた気がするんだけど。私の気のせい?

「……先輩、どういうこと?」

「え? ここまで説明が必要とは。学研の学習漫画みたいだな……。まあいい、もう一回言うが、あたしは今部員のを探していて、お前らはその誘いを受けた。ここまではわかるな?」

「う、うん。そうだね」

 嫌な予感をビンビンに働かせながら返す。

「ということは、祭華、フォミラ、綴、お前らはもうあたしが作る部活の部員ってわけだ」

 あーそーゆーことね完全に理解した。

 私たち、詐欺に遭ったんだ。


「実は部室は美兎からいいところを教えてもらっているんだ」

 そうやって足を踏み入れた場所は、部室棟や校舎の奥にある物置のような場所で、すっごいボロボロな建物だった。

 棚、机、椅子、ほとんどのものに積もっている埃や塵。

 掃除がめちゃくちゃ大変そう。

 だけど隠れ家的な感じで、ちょっと楽しそうかも。


「さあ適当な場所に腰掛けてくれ。これからあと一人を見つけるための作戦会議を行う」

 茜先輩は雑巾で椅子を拭きながら言う。

雑巾で拭かれて綺麗になった椅子に、私たちは腰をかけた。なかなか気が利くじゃん。全く気にせず埃まみれで、床と変わらない状態の椅子に座らせるのかと思ってた。


「さて、全員席に着いたところだし、議題に移ろうか」

 そう茜先輩は、机に両肘をつき、両手を組んだまま口元に持って行った。グラサンを光らせたらもっと雰囲気が出そう。

「お前ら、何か案はないか? 新入部員を集められるいい方法を」

「ちなみに先輩はどんな案があるの?」

 フォミラが訊ねる。

 すると先輩は少しだけ「う〜ん」と考える素振りを見せてから、ゆっくりと口を開いた。

「そうだなー……。とりあえずすぐに堕とせそうな女とっ捕まえるっていうのはどうだ?」

「タチの悪いホストの客引きみたい」

「私女の子堕とすの得意だよ!」

「却下。根暗女を祭華の近くに置きたくない。教育に悪い」

 賛成一人、反対一人、で、私は別に勝手にやってくださいって感じ。

 なんで綴はすぐに堕とせそうって情報だけで根暗が出てきたのかな?


「よし、じゃあ校門に行くか。それで根暗女をゲットだ!」

 そう言って勢いよく外へと駆け出す茜先輩。それに続いて綴も「待て。わたしが却下したことを全部やろうとするな!」と部室を出て行った。

「祭華ちゃんは根暗っ娘、どう思う?」

「別にななんとも。だって綴が根暗じゃん」

 さっきの話の感じだと、自分が根暗女だって気づいてなさそうだけど。

「…………祭華ちゃんって、たまに酷いこと言うよね」

「だって本当のことじゃん」

 私がそう言った途端に、フォミラが微妙な笑みをこぼしたのは、なんでだったんだろう。

「でも、そういう鈍感なところも好きだよ」

「重い……」

 物理的にも、精神的にも。


 

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カレイド・ガールズ! 山内拓斗 @hyamauchi4182

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