第10話 タルタル南蛮

砂羽と公園で別れた後、ゆっくりと家路に着く。


今日の霊園での衝撃な出来事とこれから母に聞かされるであろう真実を僕は受け止めることができるだろうか。


現実離れした一日が妙に他人事のようにも感じてしまう自分の心の一面に気づきながら母の帰りを待つ時間はあまりにも短く感じた。


「志音おなかすいたでしょう。」


母が帰宅直後、開口一番に言った。


人がこんなに混乱しているのにあまりにも間のぬけたような言葉で力がはいらない。


「別に・・・・。」」


数秒の沈黙がなんとも気まずい。


数時間前の霊園での出来事はなんだったんだろう。


こすず弁当屋で購入してきたであろうタルタル南蛮弁当の匂いが部屋中を占拠している。


この弁当の匂いには勝てない。


僕が好きであろうこの弁当を買ってきたのも母なりの作戦なのかもしれない。


決して食べ物につられたとは完全には否定できないけれど、食卓テーブルに弁当を置くと、お互い無言でお茶の用意をして着席した。


弁当の蓋を開く。


たまらない、食欲をそそる匂い


そんなことを頭の中で考えている事を母には悟られないように


「麗奈さん、今日霊園で出会った人のこと聞かせてよ」

淡々と僕から言葉を発した。


「志音の戸籍上の父親で私の書類上の夫よ。」


「だからそれが意味不明なんだよ。今さらそんな支離滅裂な話されても、はい、そうですかて納得できると思う。」

荒げそうになった声を抑えるように心にブレーキをかけた。


「僕の質問に麗奈さんは正直に答えて。」


うなずくような素振りで弁当を一点に見つめている母を見て二人ともこの弁当めっちゃ好きだよなと思うと面白くなって笑いそうになる声を抑え込んだ。

それにテレビドラマで見たことがあるような取り調べコントをしているようだった。


「僕の父親は市村竜志だよね。」


「うん。」


「なんで市村竜志と結婚しないで奥田陸と結婚して、それも今まで音信不通で過ごしてきたんだよ。」


「それは、竜志がそうしてくれて願ったから、陸と私は結婚したの。」


「僕がいるのになんでだよ。」


「妊娠が分かった時、竜志すごく喜んでくれてすぐに結婚しようてプロポーズしてくれたけど竜志の両親に大反対されて。私、施設出身だから受け入れてもらえなかったのよ。現実てそんなものよ。」

母の言葉に諦めの悲しみがまとわりついているようだった。


「そんなバカげたことがあるのかよ・・・・。」


「志音、竜志の事を誤解しないで。反対されても竜志は私と結婚する道を選んでくれたのよ。でもそれと同時ぐらいに竜志、心筋梗塞で倒れて亡くなる直前にバンドメンバーだった陸にお腹の父親になってくれて懇願したのよ。陸と私は同じ施設出身で元は竜志に出会ったのも陸に会いに行ったバンドの打ち上げだったから。」


「だからって奥田陸と結婚しなくてもよかったんじゃない。」


「志音の言う通り。そんな結婚生活なんかうまくいかない。だから離婚届けを置いて陸の側を離れたの。」


智輝の元彼女といい、母も含めて僕は女心に皆無かもしれない。






 



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