第9話夕方の公園

kaionnの奥田陸が僕の事を見て迷わず志音という名前を口にしたこと、僕が市村竜志の子供であること、母の事を麗奈と呼び捨てたことなどが冷静を取り戻しながら奥田陸と僕たち親子との関係が気になってしょうがない。


母が昔から何かを隠していることは薄々、気づいていたけれどもう隠しきれない時が来たのかもしれない。


「麗奈にいつか会えると竜志の命日には毎年メンバーで墓参りに来てたけど、まさか年末に来て俺たちを避けてたんだな。」


「そうよ。なにか悪い。それより陸は365日ここで待っていたの?」


奥田陸は僕の方を見ると

「いや12月3日竜志の命日の日に霊園で竜志が現れたて俺が霊園に着いたら竜志の両親が大騒ぎしているし、泰樹(やすき)と拓斗(たくと)が逃げる竜志似の子にぶつかったて言うから、きっと志音君がここに来たんだと確信したんだ。」


あの時あわてて逃げる途中、確かに誰かにぶつかりながらも僕は謝りもせずに無我夢中だったことを思い出した。


偶然にも時間潰しに父の命日に霊園に行ってしまったことが今の事態を引き起こしてしまっているのだ。


「あなたと母との関係を教えてください。」


僕は母が止めるのも聞かず強い口調で尋ねた。


すこし間があったと思う。


僕には長く感じた。


奥田陸から聞かされた一言は、


「夫婦だ。今も別れていないし志音君は僕の子供だ。」


「陸、やめて。」


「えっ!夫婦って。」


あまりにも衝撃すぎてもうキャパオーバーだ。


「麗奈さん、3千円ちょうだい。」


「なに志音どうして今・・・・。」


動揺している母とそれ以上に動揺している僕がいる。


「早くしろよ。」


いつもより強い口調でお金を受け取ると


「僕は先に電車で帰るから後は二人で話をして。僕は家で麗奈さんを待っているから帰宅したら洗いざらい話をして。」


その時、僕ができる精一杯の行動だったと思う。


渡された5千円札を握りしめながら振り返りもせずに僕は霊園を飛び出した。


僕を追いかけようとしている母を奥田陸は止めているようにも感じた。


前と同じように帰りの電車は異空間で、いや前以上に苦しくて溺れそうな気分だ。


泣きたい。

泣きたい。


泣くな。

泣くな。


いつもより乗客が多く乗っている車内で僕は何度も自分に言い聞かせた。


電車から降りた後もすぐに家路に着く気にはならなかった。


公園のベンチに腰をおろす。


よく小さい頃は砂羽と宗とで遊んだ公園だ。


昔は広く感じていた公園も改めて見ると小さくなったように感じた。


「あー帰りたくね。」


思わずバカでかい独り言と差し込む夕日があまりにもまぶしくて目を閉じた。


さっきからずっとバイブレーションしているスマホもポケットから取り出す気になれない。


「こら志音、私のコール無視するな。」


背後から砂羽の声が聞こえて振り向くと顔に温かい缶コーヒーを押し当てられた。


「私のおごり。遠慮なく飲みたまえ。」


すこし偉そうに砂羽が笑うと僕の隣に座った。


どこか似たようなことが昔もあったような錯覚に陥ってしまう。


いや錯覚ではなく僕たち三人は誰かが落ち込むと今のようにやんわりと相手を思いやるのが昔から同じだ。


冷え切った身体に缶コーヒーは染み渡るように僕の身体を温めてくれた。


「砂羽ありがとう。」


小さな声で言う僕の声に何も聞かず隣にいてくれる砂羽の存在はどんどん大きくなっている。











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