第5話麗奈さん
テスト期間も終わり砂羽のおかげでなんとか追試は免れた。
もうすぐ冬休みもやってくるし終業式の翌日はクリスマスイブだ。
誰がどう決めたのでもなく毎年その夜は、僕の家に砂羽と宗、中学生になってからは智輝も合流してバカ騒ぎするのが恒例だった。
たぶん智輝は今年は雪菜ちゃんと過ごすだろうから来ないし、また昔のように3人で過ごすことになるんだろうとぼんやりと考えながら浴槽に半分、顔を沈めていると母の声がなんとなく聞こえてくる。
「志音、風呂入っている時間長すぎるわよ。」
かれこれ一時間以上、風呂に入っていたことに自分でも内心驚いてしまった。
「志音、ここ最近、心ここにあらずて感じがするわよ。」
「そんなことないって。」
母に図星の一言をいわれて思わず声がうわずってしまう。
母はどんな時も笑顔で元気いっぱいに接してくれる。
鬱陶しい時もあるけれど僕の事を愛情いっぱいに育ててくれた唯一の肉親だ。
「なあ母さん、今年も父さんに会いに行くの?」
いつのまにかママから母さん、パパから父さんへと呼び方を僕は変えていた。
「やだ、志音!母さんなんて呼ばないでて何度も言ってるじゃない。麗ちゃんか麗奈さんにして。まだ29なんだから。」
「なんで29歳で17歳の息子がいるんだよ。39歳だろう。」
確かに母は美人で年齢のわりに若いし小さい頃は自慢の母だと心底思っていたけれど年齢や呼び名の話になると一歩も引かない強情なところがある。
結果的に僕がおれることになる。
「じゃあ麗奈さん、12月末、父さんに会いに行くの?」
再度聞き直すと、母はさっきまでの笑顔とは裏腹に顔をテーブルに伏せて何かモゴモゴとしゃべっている。
近づいて言葉を聞き取るとはっきりと母の声が飛び込んできた。
「もう会いに行かない。」
「なんでだよ。」
反射的に大きな声で言ってしまった。
僕の声に驚きながらも母は僕の顔を見つめながら
「志音がいるから会わなくても平気。だって竜志、もう墓石だから。」
「そんなの答えになってない。それに墓石じゃなくて冬眠中だろう。」
いつもの僕なら聞き流すのにムキになってしまっている。
「ごめん志音。気になるよね。こんな言い方されたら。」
母が僕から顔を背け肩を震わせている。
「今年は僕も一緒に行くから父さんに会いにいこうよ。麗奈さん。」
この時、霊園の出来事を母に話さなかった事を今でも僕は複雑な気持ちでいる。
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