第6話クリスマスイブの出来事
予想通りクリスマスイブはいつもの3人で過ごすことになった。
砂羽が家からたくさんの手料理を持ち込んでくれる。
宗と僕はいつものケーキ屋に予約注文したクリスマスケーキを受け取りに行く。
もちろんケーキ代金は先払いしてある。
砂羽いわく僕たちのおつかいは信用できないらしい。
「やっぱ自家製の唐揚げ最高にうまいよな。」
僕は水原家の唐揚げがこの世で一番美味しいと本気で思っている。
「麗ちゃん今年もアレかな。」
「そうだな。絶対に由美子さんと飲んでると思う。」
水原由美子さんは砂羽と宗の母親だ。
僕も小さいころから由美子さんにはお世話になって、とてもかわいがってもらっている。
こうやって僕たち3人がお互いの家を行き来しているのも母親同士が仲がいいのが始まりだと思う。
「あの二人て酒飲むと、すぐ大声で歌いだすから家だと隣近所から苦情がきて迷惑なんだよな。」
宗がエビフライを大きな口で3本一度に食べながらしゃべっている。
器用な奴だ。
宗の言う通り僕が住むアパートは音が響くから大虎になった二人が帰宅すると毎回3人で苦戦する。
「でもあの二人てあんなに美人で社交的なのに男っ気がまったくないよな。」
宗がぼそり言うと残り数本になったエビフライを独り占めしようとして砂羽に軽く箸を止められている。
砂羽と宗の両親は二人が小学生になったとき離婚したと思う。
僕も生まれた時から父親はいなかったから当時の事は、さほど驚かなかった事だけはうっすらとだけ記憶している。
「親父、今頃生きてんのかな?けっこうギャンブルとかハマってやばい人らに追い回されてたしもうこの世にいないかもな。」
宗は記憶が鮮明にあるらしくはっきりとしゃべる。
「僕なんかは亡くなっているから一度ぐらいは顔を見てみたかったな。」
「珍しいな。志音が親父の話するの。なにかあったのか?」
「最近ちょっと気になっただけでそんな深い意味はない。」
「そういえば前に由美子が志音は・・・。」
宗が言いかけたと同時にインターホンが鳴り響いて会話が途切れた。
まさか大虎の二人が帰宅したのかと3人で身構えてしまう。
「帰って来るにはまだ早いよね。」
砂羽が壁時計に目を移すとドア向こうからかすかに智輝の声が聞こえてくる。
「あいつ彼女を連れて来たのか!」
宗が嬉しそうだ。
さすがに砂羽がいる状況で彼女連れの智輝に腹が立った。
なんとか理由をつけて智輝達には帰ってもらおうとドアを開けるとそこには一人泣きじゃくる智輝が立っている。
この状況ではさすがに帰れとは言えない。
僕より先に宗が泣きじゃくる智輝を家に引き入れコタツに座らせるとテッシュケースを智輝の前に置き背中をさすってやっている。
宗はちゃらんぽらんのようで実は優しい奴なのかもしれない。
「雪菜に・・。雪菜に振られた。好きな奴のことが忘れられないって。俺とはこれ以上付き合えないて。」
先週までラブラブだったように見えた二人がなんでだ?
「ねえ雪菜ちゃんは今どこにいるの?」
砂羽は泣きじゃくる智輝を前に強い口調で問いかけている。
智輝を心配しているよりかは振った相手を気にかけている砂羽も母と同じ謎の生き物に見えてしまう。
喜べ砂羽。
智輝は別れたんだからチャンスはあるぞと僕の心のエールも届くことなく砂羽は何度も智輝に問いかけている。
「駅前のコンビニでさっき別れて俺は志音家に来た。」
「雪菜ちゃん一人残してきたの。このバカ。」
「おいおい砂羽、智輝は振られて憔悴状態なのに彼女を家まで送れてひどくないか。」
宗が言い返すのもはっきり聞かず砂羽はコートを急いで着ると家を飛び出して行った。
残された僕たち3人は茫然とする。
「おい志音GO。」
宗の言葉に我にかえると僕も遅れながら砂羽を追いかけた。
外は凍てつくような寒さだ。
もう雪菜ちゃんは駅前にはいないと思う。
砂羽と合流したらコンビニでお菓子でも買い足して帰ろうと走るスピードを落とした。
僕の予想に反して雪菜ちゃんはまだコンビニ横のベンチ近くにいて泣いている。
振ったのに泣くのか?
一足先に到着した砂羽を見て雪菜ちゃんは飛びつくように砂羽に駆け込むとさっき以上に泣きながら砂羽に何かを訴えている。
「雪菜は砂羽先輩が好き。諦められない。」
僕の耳に今度は、はっきりと聞こえてきた。
僕も智輝や宗と同じく鈍感能天気だったんだとその時、気づいて砂羽に対する曖昧な恋心が苦しかった。
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